FORGOTTEN NIGHTMARE



Forgotten Nightmare 2016/4/26



NORMAL MODE



午後の行きつけカフェ、入り口脇テーブル。突如慌しく死者達が逃げ去り、粗暴な足音が後ろから聞こえてきた。カチ、リリイ。長い撃鉄の音。回転式だろう。

「動くな、お前がボスだな」

男のダミ声。かなり背は高そうだ。

「いいや、私はこれを飲んでるだけだ」粉末ミルク入りココア。

「とぼけるな。お前が主だと、そこのキタネエ小娘から聞いたぞ」

きれいに溶けたココアの甘味と、粉末ミルクの甘味が、白黒の調和を舌にもたらす。カップを置いて、椅子から仰け反るように後ろを見る。特徴的な棒付き銃身、コルトSAAだ。そして歪んだ歯並びの大男。その後ろにもう4人。

「そうだとして、私に何をしてほしい?」

そのまま頭を逆向きにしたまま手を開いて問い返す。大男は鼻で笑った。

「あたりめえだろうが、金目のもんだ。ありったけよこせ」

逆向きの男に首を傾げる。「では君達は何を私に支払う?」

男はひと呼吸置いて激昂した。「オレがお前を脅してんだ!!」

「いいか、今すぐ宝石や金の場所を教えろ。3つ数えたらてめぇを殺す!!」

「お好きに。私を殺して、殺した私に次の金持ちの場所を聞いて、そいつも殺してから宝物の地図を脅し取ると良い。死人に口アリと言うだろう? 勤勉そうな君らなら私が言わなくても解ってるだろうけどもね」

大男はわなわなと怒りに震えたじろいだ後、思い出したように部下に合図した。同じく背の高い部下の一人は、灰色の破けたワンピースの少女の手をを強引に引いてきた。

「まずこいつを殺す!! それでも軽口を叩くか?」

「彼女はもう死んでるよ。享年から数えたら私や君らよりも年上だ。レディに敬意を」

予想外の展開に、大男は銃を突きつけたまま部下を見やる。ゾンビ少女は部下に手を掴まれながら、もう片手で逆向きピースを作り舌を出して子供っぽく挑発する。思わず乱暴に少女を突き飛ばす部下の一人。膝から転んで声を上げる少女。

「レディに乱暴したな」

私は銃を突きつける男を逆向きに見ながら。

「だったら何だお前!! おい、ものは試しだ、そいつを撃て!!」

部下が懐から銃を出す。錆びたFN M1900。私は血の上った頭を戻し、カップに指をかける。

ひとすすりして、その中身を肩越しに大男にぶちまけた。

熱いココアで目を潰されて叫ぶ大男。そして椅子ごと地面に思い切り倒れこむ。

ダァン!! 頭上でリボルバーが火を噴いた。大男は椅子に膝を押されてそのまま転ぶ。見えないが恐らく後頭部に男の股間。思い切り頭を振って。

グシャアッ!!

椅子から転げる加速と頭突きの威力で、男の睾丸が音を立てて砕けた。情けない悲鳴。私は素早く右側へと転がって男の銃を奪う。

ダァン!!

銃を抜き、少女を撃とうとした部下の男の胴体に穴が開いた。立ち上がりもう一度撃鉄を起こして撃つ。今度は男の首筋に掠め、鮮血が噴出した。続いてその手前の部下。カチッ。弾が出ない。その一瞬の隙で残る3人が一斉に銃を引き抜きこちらへ集中砲火した。

カフェの外壁が爆ぜ、石粉が飛び散り、テーブルが裂ける。私はへばりつくようにテーブルの下に飛び込んで木製の足を蹴飛ばした。ないよりマシの目隠しだ。整備の悪いSAAのシリンダーをぐりぐりと回す。4発目、カラ。5発目、使用済。6発目、未使用。1つ戻して撃鉄を起こす。

男達の叫び声。こちらに近付いているようだ。こちらの弾は一発、男は3人。腰には愛銃があるが左手にティーカップ。私はテーブルの影からティーカップを真上に放り投げた。素早くカップを狙う。真っ直ぐに上昇し、重力と釣り合い止まる。そして落下する瞬間に、目を瞑って引き金を引いた。

ズダァン!! バリイィン!!

空中で粉々に砕けたティーカップの破片が、ふとティーカップを見た3人の目玉に突き刺さった。絶叫、悲鳴。めちゃくちゃな銃声。左手で覆った私の顔にも破片が降り注ぐ。銃弾と破片の雨が止んだ所で起き上がって周りを見る。

めちゃくちゃに乱射した弾が3人のうち2人に当たり、同士討ちして死んでいる。残る一人は腰を抜かし、だらだらと眼孔から血を涙のように流しながら弾切れのモーゼルの引き金を引き続けている。私は弾切れのSAAを大男の上に投げ捨て、手をドレスの裾で拭いてからゾンビの少女を助け起こした。

「どこか喰われませんでしたか、レディ」

彼女に問う。

「大丈夫だけど、何で?」

彼女が問い返す。

「とても大きな吸血ダニを5匹ほど見つけましてね、喰われたのでないかと心配で」

少女は一息置いて、ケタケタ笑い始めた。

「大丈夫よ。所で私、お昼がまだなんだけど」

私は死に絶え、もがく盗賊を見て。

「おごりますよ」

カフェの中から銀のトレイを盾にして、店主が出てきた。私は軽く手招く。店主と少女は5人を店の中に引きずり込んだ。 数時間後、カフェの看板に店主が日替わりメニューを書き込んだ。 "ミートパイ 本日半額!!"

END













※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。








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