FORGOTTEN NIGHTMARE
Forgotten Nightmare
"Origin of Carnivore"
2024/07/28
NORMAL MODE
私がどこから来たか?
覚えている事を語りましょうか。
場所は、真っ暗な水の中。
色一つ無く、底もない闇の中。
時折泡に反射する、白と青だけが見える場所。
そこで私は形もなく在りました。
最初に私を"見た"のは、小さな獣。
水底に光る私を見て、
それを死に際の夢に見ました。
それから程なくして、
獣はもう一回り大きな獣の牙に掛かりました。
私という夢は、喰った獣に引き継がれました。
その獣は、私を"影"と見ました。
追い立て、牙をかけ、殺すもの。
間もなくそれは現実となり、
獣はまた別の獣の牙に掛かりました。
次の獣は、私を"敵"と見ました。
白き毛皮を纏い、
青い目と鋭い牙を持つ狡猾なものと。
彼もまた毎晩、夢で私から逃げました。
逃げて逃げて、逃げ狂う内に、罠にかかり。
獣は人に殺され、喰われました。
獣達の夢は、喰った人間に継がれました。
人間は毎晩私の夢を見ました。
"人を喰う狡猾な獣が追い立てる"と。
人もまた、私から逃げ狂い、そのうちに。
私と間違えて、人間を叩き殺し、自ら身を投げました。
私は殺された人間の、親しい人の夢に移りました。
そこで私は初めて、人の殺意に触れました。
復讐の憎悪。喰う為でも、逃げるためでもない心。
とても輝いて見えたそれに、私は惹かれました。
私はその者が好む獣の姿を取りました。
しかし彼は、私を夢で見ると怯え、逃げ惑い。
私を殺そうともがき苦しみ、一年後にぶら下がりました。
それから私は、強く輝く魂を探し彷徨いました。
人の形を取る事を覚え、人が人を殺める方法を覚え。
牙なく生まれた獣擬きが握る鉄の牙を知り。
そのうちに一人の人間を見つけました。
純粋に殺しを愉しみたい者を。
私は最も弱い姿を取り、
ナイフを持ちその者の夢へ住み着きました。
その夢で私は、あえて死を譲りました。
刃を差し出し、受け取らせ私を殺す夢を。
初めは上手くいきました。
ですがそれが続く内に、
その者の心は次第に壊れ始め。
一年と半分で、自らの心臓を突き刺しました。
その後、似たような者を捜し歩きました。
ですが人はガラスのように儚いもので。
二人目も、三人目も。
二年と持たずに自ら命を絶ちました。
生まれていない私を殺す事は、
何者にも叶わぬ事でした。
始まりの無いそれに、終わりも無いのです。
そんな折、私は幼い男の魂を見つけました。
その男は、復讐でも欲望でもなく。
「この世の全て」を心の底から憎悪していました。
人も、神も、世界全て等しく恨み壊さんとする真っ赤な魂。
惹かれる事に時間は要りませんでした。
私は彼の夢で、ナイフを渡し、そして彼に殺されました。
幼さからは想像も付かぬほどの、本能的な殺意で。
彼は私が何度襲おうと、何度私に殺されようとも、
火薬で鉛を吐き出す頼りない玩具を握り締め、
決して抵抗を諦めませんでした。
一年、二年、夢の外で追い立てても。
どれ程までに狂い壊れても。
彼は戦い続ける事を諦めませんでした。
それどころか、私に対し不可思議な感情を持ち始めました。
狩り、殺す者である私を好み、
向こうから悪夢へ来るようになりました。
私の知らぬ感情を見せる彼は一層興味深く。
ある時、殺し合いの最中に彼は言いました。
「化物、お前の名前は」と。
私が考えた事もない事を、彼は血に濡れながら叫びました。
言葉を持たぬ私は、それに威嚇で答えました。
そして彼は、私の威嚇を言葉だと解釈し。
叫びました。「ルル、そう呼んでいいか」と。
その名前を呼ばれる毎に、私の狩りに鈍りが出ました。
見てしまうのです。彼の瞳を。
充血し、人であるそれを失っていく双眸を。
彼の望みは、いつしか変わりました。
世界の全てを恨み滅ぼす事よりも、
私と同じ、化物になる事を望んだのです。
出会いから二年と半年。
私は獣のまま、身を偽る事もなく。
彼との殺し合いを休戦したのです。
そして私は、私の意味を知りました。
彼の魂を永遠に連れていくこと。
彼は私が殺しきれなかった唯一の元人間。
だからこそ、私は彼に仕えるのです。
私が連れていく、その日まで。
・・・
随分と仲間も増え、
賑やかな場所になってしまいましたがね。
その日の後も、
獣達に静寂は永遠に訪れないようで。
彼と私が見た、その悪夢に。
END
※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。
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