FORGOTTEN NIGHTMARE

Forgotten Nightmare 2025/1/28
"Last Twilight"
MOBILE MODE
(スマホ等をお使いの方向け)
時計塔街西商業区のカフェ、「Last Twilight(ラスト・トワイライト)」。
ルルの行きつけの軽食喫茶だ。時計塔中心広場が窓から見える。
青の車体に白ストライプのワーゲンバスが路肩に停められている。
ネクロランドでのショッピングの合間。
ルル、アリス、フェルの3匹は、昼下がりのティータイムにやってきた。
他愛もない話を始め30分。フェルはホットココア、ルルは2杯目のコーヒー、
アリスはレモネード、クリームソーダ、ホットココアとこれで3杯目だ。
名物のチョコチップスコーンを皆で齧りながら、ルルが妙な事を言い出す。
「銃弾って磁石みたいじゃないですかにゃ?」
「磁石? 鉛に磁力は反応しないぞ」
「ほら、1発撃たれると続けて2発、3発と食らう時ないですか?」
「わからん、1発撃たれると不味いからな・・・」
「ご主人様は脆いですからにゃあ」
「私はわかるわ!!」
「にゃふふ、アリスは解ってるみたいですよ」
「撃たれると撃たれやすくなるわよね!!」
「何なんでしょうかね、私には体にめり込んだ弾が他の弾を引き付けてるように感じるんですよ」
「弾が他の弾を呼んでるのよ!! 鉄砲の中で弾は一緒でしょ? 弾は寂しがりなのよ!!」
「一理ありますにゃあ、どうですか? ご主人様」
「・・・だとすれば大抵は25人か50人兄弟だな、一箱に入ってる数だ」
「大家族なのね!!」
「新品の銃弾は綺麗なんだ、特にアメリカ製の赤い箱の弾丸は美しい」
「うちの城で作ってる弾はそうでもないですにゃあ」
「基本的にリロード弾だからな、使用済みの再生には限界がある。
威力は保証するがね。鉄芯入りのジャケッテッド・ホローポイント弾だ。
貫通力も打撃力も、先端に十字を刻んで"祈り"も込めてある」
「・・・で、弾が撃たれた場所に集まっていくのは結局どうなんです? 撃つ側として」
「どうだろうな、集めようとしなければ集まらない。むしろ散らないようにするのが難しい」
「結局撃つ側の意思ですかにゃあ」
「1発でも当たると動きが悪くなるから、続けて撃ちやすいのはあるな。
あとはヤケになって飛び出してくるのは感じる」
「慣れてくるのもあるわね!!」
「あー、それですよそれ」
「・・・撃たれ慣れるのか?」
「そうよ!! 1発当たったらもう驚かないわ!!」
「ですにゃ、痛さ具合が知れたら後は程度問題です」
「成る程、だから一撃で大きなダメージを与えなければ勝てない訳だ」
「ご主人様がぶら下げてる"バカの銃"は効きますね。まともに食らえば何処かもげますから」
「にいさまの銃は特別だものね!! ビスケットのは痛くないもの!!
きっとねえさまの彫った模様のお陰ね!!」
「にゃふふっ、綺麗な銃で威力倍増ですか」
「ああ、人間の銃には無い魔力がある」
「・・・実際の所は?」
「ホットロードだ、火薬を30%増してある。ペレットは全て切れ込み入り」
「弾の所為ですか」
「それに耐える強度が銃の為す業だ。中折れ式は通常強装薬を使えないが、
カリエンテ12はフレームと銃身のロック機構を強化してある」
「ダムダム弾のマグナムショットガンって訳ですにゃあ、ご主人様らしいです」
「うちの城で作る弾は全て"祈り"を込めてるからな」
「人間共は毎回騒ぎますよね、条約違反の弾だと」
「現世の戦争条約は生きてる連中だけの取り決めに過ぎん」
「切れ込み入りの弾は食べやすくて好きよ!!」
「アリスが喜ぶから、全銃弾をダムダムにする条約でも作ろうか」
「にゃふふふ、ノワールとかスナイパーが困りますね」
「でも金色のつやつや弾も甘くて好きよ!!」
「やっぱ両方ないとダメそうだな」
「・・・さて、3杯目を頼みますか。ご主人様2杯目は?」
「頼もうか。アリスは次は何が欲しい?」
「パフェ!! えーっとメニューの・・・これ!!
バナナチョコビスケットパフェ!!」
「ではクランベリースコーン行きますか、パロミネーテ!! 追加オーダーいけます?」
ルルが呼ぶと、赤い髪をした屍娘がメモを持って出て来た。
彼女がパロミネーテ。ラスト・トワイライトの店主。
三つ編みを肩に垂らした髪と素朴なエプロンがトレードマークだ。
「はいはいお得意様ご一行ちゃん、今度は・・・
ってルルとフェルは決まってるわね、おかわりでしょ?
アリスちゃん何食べたい?」
「パロミねえさま、これできる!?」
「バナナチョコビスケットパフェね、5分でいけるわ」
「待ってるわ!!」
「ふふーん、ラァイラァイ・・・ オーケェ、シュガー多めで作っとくわね!!」
「ギヒヒヒヒ!! たのしみね!! 甘いもの大好きよ!!」
「あ、クランベリースコーンも頼みますにゃ」
パロミネーテはメモにそれらを書き殴ると、
ペンを廻しながら何か歌いつつ店の奥へ下がる。
ここはネクロランドで最も素朴なカフェだ。
特段何の装飾もイベントもなく、宣伝も打たない。
だかそれ故落ち着いており、ルルのお気に入りの店だ。
時計塔街を訪れると、ルルは必ずここに入る。
コーヒーを1杯飲み、他愛もない話をパロミネーテと10分して帰るのだ。
決して愛想の良くないパロミネーテとルルは馬が合う。
今日は家族で来たので長居している。
「所で銃弾マグネットの話に戻るが、私にも似た疑問がある」
「お聞きしましょうかにゃ」
「投げナイフというヤツだが、あれはヒートシーカー(熱源追尾)か何かか?」
「獲物を目の前にしたケダモノですから、一直線に決まってますにゃ」
「銃よりもやたらと急所に飛んでくる気がしてならないんだが」
「にゃあにゃあ、そういう事ですか」
パロミネーテがコーヒーとココア、スコーンをテーブルに置く。
ルルは軽く会釈し、程よい温度のコーヒーを一口啜る。
そして口を開く。
「当たる時にしか投げないんですよ。何発もバカスカ撃てる銃とナイフは違うんです。
投げる瞬間は振りかぶる隙ができますし、投げたら武器が無くなるんですよ。
だからナイファーは当たる時にしか絶対に投げないんです。外せば大体やられますから」
「成る程・・・ 投げる時は相応の覚悟が要る訳か」
「ご主人様の投げ下手はそこから来てると見てますにゃ。
銃は外しても大した隙ができませんから。一発の覚悟が薄いんですよ。
あのチャバネローブの連中の時の見事な暴投も・・・」
「あれは申し訳なかった」
「ココアビスケット食べ放題の時ね!!」
「にゃっふふふ、ご主人様私のナイフをカッコつけて投げて見事に私の方に逸れましたからにゃあ」
「迷わず何発も撃てる方を選ぶべきだったな」
「でも一つ評価できますよ、ちゃんと刃先の方で飛んできましたから。
柄の方が飛んでくる時に比べたら上達してますにゃ」
「ねえさまねえさま!! 私のナイフ投げは!?」
「アリスは問題ありませんよ。柄が貫通するパワーで飛んできますから」
「ほんと!! 良かった!! ありがと!!」
「殺せれば、それでいいからな」
「にいさま!! 私の銃の使い方ってどう!?」
「敵に向けて引き金を引ける、それで十分だ」
「にゃふふっ、同感です」
「あの巨大な銃を両手で撃ちまくられて、顔を出せる人間はいない」
「ほんとに!? 良かったわ!! 安心ね!!」
アリスが身を起こし、テーブルに両手をついて喜んでいると、
パロミネーテが注文のパフェを持ってきた。
既にクランベリースコーンは殆どアリスが食べ尽くしている。
「お待たせ、2倍甘くしたわよ!! スプーンは残してね!!」
「ギッヒヒヒヒヒィ!! ありがと!! パロミねえさま!!」
アリスはパフェとスプーンを受け取ると、
それを抱えるように食べ始めた。
そこそこ大きなパフェがみるみる減っていく。
ウエハースを丸飲みし、板チョコを二口で齧り尽くし、
一気に半分ほど飲み干すと腕で口を拭った。
「にいさまねえさま、私もいい?」
「磁石銃弾の類か?」
「それそれ!! えっとね・・・ んー・・・」
「にゃふふ、ゆっくりで良いですよ」
「そうだわ!! ジンジャーブレッドよ!! 二本足のおやつ!!」
「人間の事だな」
「ジンジャーブレッドはね、一人食べると向かってくるのよ!!
アラザンを撒きながら!! シュガースプレーね!!」
「にゃあにゃあ、銃を乱射してきますにゃあ」
「でも、もう一人食べると逃げ始めるの!!
何か鳴き声を上げて後ろを向いて走っていくの!!」
「アリスに銃が効かないと解った反応だ」
「そしてね、もう一人食べると固まるの!!
部屋の隅に行くわ!! アイスみたいになるの!!
でも熱いアイスになるのよ!! 不思議ね!!
鳥みたいな声で鳴くのよ!!」
「恐怖で腰が抜けるという人間の反応ですにゃあ。
面白いですよねアレ、何度見てもウケますよ」
「それでそれで、えーっと・・・何人食べたのかしら?
5人? 8人? ギヒヒヒ!! 食べるわ!!」
アリスはパフェの残りをビールのように一飲みする。
ルルは指で撃つ仕草をしながら。
「バン、バン、バン・・・ で3人ですにゃ」
「3人ね!! それで5人目に近づくと・・・レモネードなのよ!!」
「レモネードか? クランベリーソースじゃなく?」
「きっとレモネードよ!! なぜかジンジャーブレッドは
6人目でレモネードを出すの!! 魔法みたいに!!」
瞬間、カウンターで吹き出す声と机を叩く音が聞こえて来た。
"レモネード"の正体に感づいたパロミネーテが笑い転げている。
ルルのポーカーフェイスも釣られて崩れた。
「にっ・・・ ひひっ・・・ みゃひゃひゃひゃひゃ!!
"下から"ですよにゃあ!? レモネード蛇口から!!」
「そうよ!! 飲んだレモネードが溢れるのかしら?」
カウンターにパロミネーテが沈んで痙攣している。
フェルは少しだけ口角を上げて笑いながら。
「レモネードによく似た分泌液だ、床に出たものは飲まない方が良い」
「そうなの!? ありがとにいさま!! 不思議よねあれ!!」
「人間の恐怖が最高潮に達した時の反応だ。基本的にそうなれば襲ってこない。
あの状況・・・ ルルは"マーキング"と呼ぶがね」
「ご主人様・・・ 私までツボらせる気ですか!?」
「他意はない」
アリスがパフェを飲み干すのに合わせ、ルルとフェルも最後の一口を啜った。
「さて、そろそろ行くとするか。・・・パロミネーテ? 何処だ?」
「カウンターの裏で虫の息です」
「パロミねえさま? 何かあったの?」
どうにかカウンターから立ち上がったパロミネーテは、
乱れた髪を手で直しながら息も絶え絶えに言った。
「ハアッ・・・ハアッ・・・ お代は十分よ・・・
2ヶ月分は笑わせてもらったわ・・・ ヒヒッ・・・
アリスちゃん、やっぱやるわね・・・
この私をこれだけ笑わせるなんて・・・」
「パロミねえさまに褒められたわ!! ありがとねえさま!!」
「これからレモネードに"レモン使用"って書こうかしら・・・」
ここで遂にフェルのツボに入り、彼は吹き出した。
引き笑いをしながら懐から出した20トリートをカウンターに置き、
指で会釈して3人は昼間のカフェを後にした。
この日、ネクロランドは平和だった。
END
※ この小説は、
作者の明晰夢を元に再現した
フィクションです。




