FORGOTTEN NIGHTMARE

Forgotten Nightmare 2024/8/6
"Summer Vacation"
MOBILE MODE
(スマホ等をお使いの方向け)
夢の中で目が覚める。
特徴的なエンジン音。革のシートの感触。
手回し式の窓から吹き込む風。
ルルの愛車、クラシックミニの助手席。
カセットテープ式のオーディオからジャズワルツが流れている。
「お目覚めですにゃあ」
勿論、右手側ではルルがハンドルを握っている。
ネクロランドの森を抜ける寸前と言った所か。
「・・・目的地は?」
フェリエッタは、今日もまた何かの乱痴気騒ぎに巻き込まれると覚悟する。
左腰に手を当てる。何もない。いつもならここに愛用のショットガンがある。
右の拳銃も、ない。背伸びついでに後襟の隠し銃も探るが、それもない。
丸腰だ。
「にゃふふふ、今日の目的地は狩場じゃありませんよ」
森の獣道が薄灰の煙に包まれる。世界線が、夢の時空が変わる。
ルルはこうしてこの森からあらゆる夢へと渡り歩ける。
"本物のナイトメア"であるが所以だ。
視界がブラックアウトし、それから光の列が左右に走る。
トンネル内のライト。そして眩い光が包むと。
・・・そこは、何処かの港だった。
澄み渡る青空に雲、まだ過ごしやすかった時代の8月の夏。
2000年代初頭だろうか?
「ここは?」
「とある日本の港です」
小高い峠道を走り下り、港の施設に車を停める。
降り立った眼前には、巨大な豪華客船があった。
何やらセレモニーが行われている。
車を降りる。フォーマルまで行かないが、
それなりに整った服をフェルは着ていた。
ルルのスタイルは、白のカジュアルな袖なしワンピースだ。
白を着るとは珍しい。
彼女は愛用の丸サングラスをダッシュボードから出してかける。
「にゃっふふふ、誰にも邪魔されない夏の休暇ですよ。
とっておきの"忘れられた時間"を先日見つけまして。
記録にも記憶にもない、観た者が観ただけの史実です」
「・・・こいつのチケットを?」
「人間様2人分、世界一周の旅。半年間アレに乗りっきりですよ。
広い客室、バストイレ付、プールにカジノに豪華な食事。
時折世界の観光地。6畳間の座敷牢よりマシでしょう」
そうして、文字通り"夢"の休暇は始まった。
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甲板屋上、シャワー室。広くはないが快適なタイル張りの箱で、
程よく冷たい水を頭から被り滴らせる。
2ヶ月程経ったのだろうか。晴れの日ルルに起こされてはデッキで朝日を見て、
日替わりで3つある食堂のどれかで日本食、フレンチ、各国の料理等を楽しみ、
船内で行われる各種のイベントを楽しんだり、カジノやゲームコーナーで遊び更けたり。
そして夜は決まってバーラウンジで酒を飲む。そんな毎日だ。
今日はルルが突然泳ぐと言い出し、珍しく攻めた黒のビキニを着て大きなハットを被り、
適当に甲板屋上のプールで泳いではカクテルを飲んでビーチベッドで寝ていた。
大して泳ぎも上手くない私は、ルルを脇目に水に漬かっていただけなのだが。
2時間程色素のない肌を焼いた後、彼女は満足したようでお開きとなった。
そうして今、夏にまるで似合わない黒の長髪から塩素を抜いている所だ。
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午後4時。展望デッキ和食レストラン。
だいぶ早く感じるが、ルルは良い料理が予約できたと喜んで私を連れてきた。
ルルは白に紺の柄の浴衣を着て、髪を下ろしている。
座敷に通され、木のテーブルの上には鍋が置かれている。
暫くして出てきたのは、これでもかと牛肉が入った鍋料理だった。
ルルは日本食も好きなのか。意外な彼女の一面と、
人間の目も憚らずに大きな獣の口を開いて料理を楽しむ彼女を見つつ、
私もその美味なる料理に舌鼓を打っていた。
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最終日。半年間に及ぶ船旅もラストだ。
船内放送で入港の案内がされている。
「ご主人様、ほら、スーツケースにお土産詰めるの手伝って下さいよ」
ルルはこれでもかと買い込んだ食品や世界の雑貨、洋服を、現地で買った
スーツケース4個に詰め込んでいる。
税関とか、大丈夫なんだろうか。まあいい。これは夢だし、何とかするんだろう。
忘れ物があってはならない。だいぶ慣れた部屋の私物を集めてベッド上に置く。
撮り終えた使い捨てカメラが6つ。思い出の山だ。こちらの世界で現像するのが望ましいだろう。
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帰港セレモニーが行われ、半年間の蜜月の旅行のフィナーレとなった。
紙テープが舞う中、ルルと手をつないで階段を下りる。
意外にも殺風景な港脇の施設。何かの申告をルルが手際よくやっている。
乾いた冬の風が吹き込む。あの夏から半年が建った。
毎日訳のわからない思い付きで、ルルは一時も飽きさせなかった。
いい妻を持ったものだ。
積みきれないスーツケースを屋根に縛る。
雪が降らない地方をクラシックミニが走る。
そして、また助手席で眠りにつく。
彼女の子守歌を聞きながら・・・
END
※ この小説は、
作者の明晰夢を元に再現した
フィクションです。




