FORGOTTEN NIGHTMARE
Forgotten Nightmare 2020/1/9
"Inside Enemy"
NORMAL MODE
2020/01/09。午前5時。ネクロランド。薄紫色の霧のかかる悪夢の中。ガラクタの山を漁る2人の屍者の影。
「お姉ちゃん、これ、良い物じゃない?」
薄緑色に腐敗した肌を持つ、茶色でパサパサの髪色。ボブカットの猫の屍少女。ガラクタ拾い屋、レイダーシスターズの妹エミルだ。拾い上げたまだ比較的新しいラジオを、薄紫色の死斑の皮膚をした同じ髪色、ロングヘアの姉ミミルに見せる。
「あら!! エミル!! 良い物見つけたじゃない!! きっとエゼックが喜ぶわ!!」
姉妹の職業。得意な事はこのガラクタ拾いだ。ネクロランドには、現世で"忘れられた"無数の器物がどこからともなく現れてはこうしてガラクタの山を作る。様々な時代、様々な世界線から多くのモノが流れ着く。それを一つ一つ、こうしてガラクタの山に登って拾い集めては様々な住人達と物々交換で提供する。それがレイダーシスターズの商売だ。突き抜けて善人な姉妹は、利益の事を考えずにほぼ無償で住人達に品物を提供する事も多く、彼女達を嫌うものはネクロランドには一匹もいない。
ふと、姉のミミルが大きなコンテナの中に置かれたメリーゴーランドのオルゴールを見つけた。洗面器ほどのサイズのアンティークの玩具だ。小躍りし、そのオルゴールの回収に向かう。しかし、そのオルゴールはどうやっても外れない。まるでコンテナに接着されているかのようだ。
「エミルーっ!! ちょっと来てー!! いいもの見つけたんだけど、全然取れないのー!!」
「あ、お姉ちゃん。すぐに行くよ!!」
エミルはガラクタの山をよたよたと転げるように独特の屍人歩きで降りると、そのコンテナの中に走り入る。
「うわぁ、綺麗!!」
「でしょ!! 二人で引っ張れば取れるかもね!!」
「壊さないように慎重に、ね。お姉ちゃん、良い? いち、に・・・」
姉妹が二人がかりでそのメリーゴーランドを引き剥がそうとする。力を込めると少しだけそれが浮き上がり、そして・・・
カチリ。
妙な音を立てた。瞬間。
バシュウウウゥゥゥゥッ!!!
「な、何!?」
「ゲホッ!! お姉ちゃん!! やばいよ!! 逃げて!!」
突然、メリーゴーランドの底から緑色のガスが噴出した。瞬く間に姉妹は緑色に包まれる。咳き込み、コンテナから脱出しようとするが、突然そのドアが音を立てて閉まった。
「ゲホゲホッ!! エミル!! ドアを開けないと・・・ううっ・・・」
「お姉ちゃん!! ゲホッ!! もしかして・・・ これ・・・ 罠・・・」
バタリ。ドサリ。レイダー姉妹は二人とも、緑のガスに包まれて気を失ってしまった。
† † † † †
ネクロランドから出た、どこかの現世のコンクリート作りの工場の部屋。電灯が一つ。ドアが一つ。曇りガラスの窓一つ。そこでエミルとミミルは椅子に縛られている。ハッとエミルが眼を覚ます。
「・・・ううっ、ここは? ・・・お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」
「んー・・・ エ、エミル!? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないみたいだよ!! これを見て!! 有刺鉄線で縛られてる!!」
「えっ・・・あ、本当だ。こんな事をするのは、たぶん私達の仲間じゃないわ・・・」
その時。ドアが勢いよく開き、三人の人間達が入ってきた。一人は赤髪に、見慣れない制服の若い男。二人目は似たような制服を着た、スカート姿の金髪。ツインテールの若い女。そして三人目は、革のホットパンツに網タイツ。ヒールの高いブーツを履いた黒紫の長髪の、身長の高い女だった。警官のような革の帽子を被り、その中央には「拷」と書かれたメダルが金色に輝いている。前髪で隠した左目。右目の下には3つのピアス。文句の付け所のない、美女だった。その美女が口を開いた。
「ふふふ、よくやったわねぇ。流石はトラップ部のエース、と言った所かしら? 上位メンバーはあのゴミ豚達と違って役に立つわね。」
「へへ、ありがとうございます!! セラ先輩!!」
金髪のツインテールの若い女が、深々と頭を下げる。
「私は対怪異学園2年、拷問部所属のセラ・イビス・・・ あはは、あなた達には洗いざらい吐いて貰うわ!!!」
拷問。その言葉を聞いて、エミルとミミルはフラッシュバックに襲われる。生前、娼館に売られ、性的に虐待しつくされて下水道に捨てられたのが死因の二人。特に妹のエミルは、そういった事を思い出すと心を閉ざし、あらゆる刺激に対して無反応になる、"シャットダウン"状態になる持病を抱えている。姉のミミルは必死に妹を守ろうとする。
「エミルには手を出さないで!!」
姉のミミルが嘆願する。
「黙れ!!このゾンビが!!」
バァン!! 赤髪の男がミミルを椅子ごと蹴り倒した。床に転がり、有刺鉄線が突き刺さり、錆色の血が所々から流れ出す。ミミルの嘆願も虚しく、エミルは無表情になり、虚ろな目で遠くを見ている。
「さあ話しなさい、支配者フェリエッタの事を!!!」
「・・・」
セラ・イビスと名乗った女の問いにもエミルは無反応だ。セラ・イビスはエミルの頬を平手で殴る。一度、二度。
「やめて!!」
「うるせえよ!! 黙れ!!」
静止しようとする姉のミミルが口を開く度に、赤髪の学生服の男がそれを遮る様にミミルを足蹴にする。それを愉悦の笑みで見下して、セラ・イビスは言った。
「あら、植物状態? じゃあまず両手の爪を全部剥がさせてもらうわ」
† † † † †
「・・・ご主人様。見つけましたよ。敵も一緒です」
人間に聞き取れない程の小声で、真っ白な影が真っ黒な影に囁く。コンクリートの廃工場跡。3人の奇妙な制服を着た男女が、何事かを話してから、曇りガラスのある小部屋の中へと入っていく。
「よし、ルル。遠慮は無用だ。突っ込んで全員撃ち殺す」
「ご主人様!! まだダメですよ!! この距離では逃げられる可能性がありますにゃ!! 私を信じて下さい!!」
「・・・解った。君の合図を待つ」
三人が入室したのを確認し、二つの影は背を丸めて個室の窓へと近付く。獣耳を持つ白い影。それはルル・ホワイトハートだ。ナイフを逆手に構え、気配を殺してドアの前に移動する。それを追う、獣耳を持つ黒い影はフェリエッタ・バリストフィリア。彫刻入り、銃身とスライドを伸ばしたカスタムの拳銃、M1911A1を握り締め、曇りガラスの前で待機する。
バチッ!! バチッ!!
中の影の一つが、エミルを殴ったのが解った。フェリエッタはそれを見て、怒りを抑えられずに窓越しに撃ちかける。それを再び制すルル。
「やめて!!」
「うるせえよ!! 黙れ!!」
バンッ!! バキッ!!
ミミルの悲鳴と、若い男の怒鳴り声。フェリエッタは完全に正気を失い、曇りガラスを銃で殴り壊し、中へ飛び込もうとする。
「ご主人様!! 6秒!! もう4秒だけ待って下さい!!」
ルルは何かのタイミングを見計らって、ドア前で待機し小声でフェリエッタを再び制する。ルルはナイフを逆手に構え、ドアに手をかけ指で3カウントをする。3、2、1・・・
ゼロ。
バァン!! 凄まじい勢いで開いたドアに、金髪ツインテールの制服の女が巻き込まれた。ドアと壁に挟まれ、叩き付けられ、大きくバランスを崩す。ルルはこれを待っていたのだ。誰一人振り向く間も無いほどの素早さで、瞬間。
ザシュッッ!!
ボトリ。ツインテールの金髪の首が、床に転がっていた。まだ胴体はふらふらとドアと壁の隙間で立ちつくしている。断面から血は一滴も吹き出ていない。
「うおっ!? あ、あ、え?」
「・・・は?」
赤髪の制服の男が振り返って驚愕する。セラ・イビスと名乗った女も状況が飲み込めない。
ダァン!! ダァンダァンダァン!!
フェリエッタは振り向いたセラ・イビスの向かって左肩に1発。続いて右肩にも1発。転んだ両足にも1発ずつ、寸分の狂いもなく銃弾を撃ち込んだ。
「ひっ!? きゃ、キャアアアアッ!!」
あまりにも素早く四肢全てを撃たれたセラ・イビスは棒立ちのまま仰向けに倒れ込み、頭を強くコンクリートに打ち付けた。その女に、フェリエッタは容赦なく馬乗りになる。
「フェリエッタは私だよ。エミルを殴ったな・・・この醜い人間が。」
バキッ!! バキィ!! フェリエッタは反転させた銃のグリップでセラ・イビスの端整に整った美女の顔を怒りに任せてめちゃくちゃに袋叩きにする。唯一無傷の赤髪の制服の男は、ハッとしたように腰の剣帯から2本のトゲ付きナックルガード装備のボウイナイフを両手に持ち、フェリエッタに斬りかかろうとした。
「先輩!! 今助けるっス!!」
瞬間。バキイィン!! セラ・イビスを袋叩きにするフェリエッタと男の間に、ルルがナイフを持って割り込んだ。斬りかかろうとした二本の刃があまりにも早い一撃で弾かれる。
「ご主人様、ごゆっくり。こいつは私が仕留めますから。」
フェリエッタは無言で見もせずに、セラ・イビスの顔面をめちゃくちゃに叩きのめしている。
「さて、とはいえ面倒です。一撃で死んでもらいますにゃ」
「ホザくなこの怪異体があああっ!!!」
赤髪の制服の男の、両手を交差させた斬りをしゃがんで回避し、ルルはそのまま男の両肺を一回ずつ突き刺した。虫の息での斬撃を棒立ち片手のみで半笑いで受け、そして倒れた男に馬乗りになってルルは必殺の「子守唄」を歌い出す。
"羊水の沼で 産まれぬ仔が沈むよ"
「っぐ・・・こっ・・・殺せっ・・・」
"眠れよ 眠れよ 鮮やかに"
「こ・・・殺してくれ・・・頼・・・む・・・」
"散る花は綺麗 金糸雀が騒ぐよ"
「し・・・死にたく・・・な・・・」
"眠れ 眠れよ ゆるやかに"
「・・・・・・・・・」
赤髪の制服の男は、数分間の時間をかけ、苦しみぬいた後に失血死した。
一方フェリエッタは、完全に顔の原型が解らなくなるまで、セラ・イビスを殴り続けていた。その後ろでルルは失血死させた男を尻目に、エミルとミミルを縛る有刺鉄線をナイフの背のノコギリ歯で切断。既に二人を救出していた。姉ミミルが呆然と立ちつくす妹エミルを抱きしめる。
「エミル、もう大丈夫よ。戻ってきて・・・ エミル・・・ 私のエミル・・・」
その呪文めいた言葉を聞いて、エミルの瞳に僅かな光が戻る。
「お、お姉ちゃん?」
「ああ!! 良かった、エミル!!」
ルルは二人に目線を合わせ、部屋の外に出るよう首で促す。
「長居は無用ですにゃ。私はご主人様を呼び戻しますから、二人は先にネクロランドへ」
「わかったわ。ありがとね、ルルちゃん」
ミミルがエミルの手を引き、よたよたと屍者走りで駆け抜けていく姉妹。そしてルルはまだ女を馬乗りで殴り続けているフェリエッタに目をやる。
「ご主人様〜? 魂いらっしゃいますか〜? その女、もうとっくに死んでますよ〜? にゃっふふふふ!!」
「・・・ルル。私は何を?」
「見ての通りです」
フェリエッタは血に染まった銃と、眼下の潰れた女の顔を見る。全てを理解し、銃を手で拭って立ち上がった。
† † † † †
その晩。ネクロランド。ルシッドヴァイン城。フェリエッタの自室。エミルとミミルが尋ねてくる。何かあった日は誰かと添い寝しないと寝られない二人だ。ベッドの上。フェリエッタを挟み、パジャマを着たエミルとミミルが両脇に横になる。
「ああ・・・恐かった。今日も。フェルちゃん、いつもありがとね」
「礼はいいよ。ミミル。謝るのは私の方だ。これは私の悪夢。これは私が何処かで望んだ結果なんだ。全て私のせいでもあるから」
「いいのよ。それでも助けてくれるのはフェルちゃんなんだから」
「エミル、怪我は?」
「大丈夫ですよ。恐かったけど。ありがとね、フェルちゃん。所で・・・フェルちゃんは恐くないんですか?」
「私には"恐怖"というものがもう無いんだ。昔は恐かった。しかしそれ以上に腹立たしい。怒りは恐怖を飲み込んでしまう。ああいう奴らを見ると、怒りで我を忘れてしまう。見ただろう? あの女を私がどうしたか。殺しても尚腹立たしいんだ。君はああいう奴らに怒りを感じないのかい?」
「・・・怒りがわからないんです。全て"仕方の無い事"なんですから。」
「仕方のない事?」
「ええ。仕方ないんですよ。ああいう人たちが私達を苦しめるのも、それをあなたが殺すのも。全ては仕方のない事。」
「・・・何故そう考える?」
「昔、私達はオモチャとして売られた。それをお金のある人たちがオモチャとして遊んだ。その結果私とお姉ちゃんは"壊れて"、それで捨てられた。全て"仕方ない事"じゃないですか? 私達にはそれ程の価値しかなかったんです。だからその価値の分の生き方しかできなかった。誰も悪くない。全ては仕方なかった。私はそう考えてるんです」
「・・・同意できないな。仕方ない事じゃない。君達を売った両親、それを買ったあいつら。奴らがクズだった。死ぬべき悪だった。だから君達を奴らは愉悦を持って"殺した"んだ。"壊した"んじゃない。だから私は奴らを皆殺しにした。それは私が君達2人の方にあの醜い連中よりも価値を感じたからだ。だから私は君達とこうして10年も共にいる。奴らが奪った時間よりもずっと長い時間、君達には幸せを感じるべきだと確信している。この今みたいにね」
「・・・それも"仕方ない"ですね。」
「何が?」
「フェルちゃんがそうやって人を殺すのが。それでいいと思いますよ。私は空虚なんです。カラの入れ物。それにフェルちゃんが詰め込んでくれる物に価値があるんです。だから・・・今の私達は輝いているんでしょう」
「・・・カラの入れ物。そうかもしれない。花瓶のようなものか。でも私にとっては国宝級の陶磁器の壷に見えるがね。あれもカラの入れ物に過ぎない。逆に言えば君だって国宝級の宝物だ。」
「・・・」
「いい所で寝てしまったか・・・」
「・・・」
「"仕方ない"、か・・・。」
フェリエッタもそっと目を閉じる。"現実"という、深い眠りの悪夢に落ちて行く・・・
† † † † †
2020/01/10。
「ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・!!!」
ネクロランド。無限の夜の森。一人の華奢な男の影が何かに追われ、必死の形相で逃げる。木々の間をすり抜ける度、手足に枝が引っかかり、特徴的な意匠の付いたコートとスーツの中間のような奇妙な制服が破けていく。時折後ろを振り返る。彼を追うモノは・・・真っ白な影だった。ふわり、ふわりと木々の間を縫うようにすり抜け、まるで浮遊するかのように軽々と彼を追い立てていく。
「にゃっふふふふ・・・」
特徴的な、少し掠れたような少女の声が真夜中の森に響き渡る。
「ヒイイイイーーッ!!!」
素っ頓狂な叫び声を上げ、青黒の短髪で黒縁のメガネをかけた華奢な男は躓きながらも必死に地を掻いて逃げていく。息も絶え絶えになったその時、白い影が突然見えなくなった。思わず立ち止まり、木陰に背をつけて隠れ、後ろを凝視する青髪の男。右にも、左にもその"影"はいない。ハァ・・・ハァ・・・ゴクリ。逃げ切った。唾を飲み込んで乱れた呼吸を整え、身を隠してそこを去ろうとした。
ドン。
何かにぶつかった。真っ白なそれは・・・
「にゃふふふ、子鼠が猫から逃げられるとでも?」
「アッ!! アッ!! アッ!! うわあぁぁぁぁぁ!!」
ルル・ホワイトハートだった。腕を後ろで組み、男と同じくらいの背丈をピンと伸ばしてただ立っていた。尻餅をつき、手を突き出し、"止めてくれ"のポーズで無様に後ずさりしていく。
「あら? その服を着ている割には随分と怯えていますにゃあ? 単に迷い込んだだけ・・・」
ルルが怪訝な顔をして、頬に手をやって考え込んだその時。
ビシュッ!! サクッ!!
「・・・?」
男が後ろに回していた手に握られた銀色の何かから、細い筒状の物体が発射されてルルの右肩に突き刺さった。ルルは眼を細め、まずは男の手にある物体を凝視する。塗装用のエアスプレーガンのような、銃の一種。続いてゆっくりと目線を肩口に移す。細い針で突き刺さるそれは注射針。小型のダートガンだ。既に中身の薬液は注入されている。一拍置いて、男がさらに震え上がった。
「そ・・・そんな!! バカな!! コブラの抽出液を改良した即効性の毒だぞ!? 何で!? 何でだよ!?」
ルルはそれを聞いて、耳まで口を裂いてにやりと笑う。凶悪な牙がズラリとその隙間から見える。
「にゃふっ、にゃっひひひひ!! コブラの毒の注射針銃でしたか!! なかなか考えましたにゃあ!! でも残念です。私の代謝より毒の効果が薄いようですよ。少し痺れるだけ。さて、お客人様、次の策を見せてもらいましょうかにゃあ?」
ガタガタと震える男はそのまま・・・土下座した。股間から液体が漏れ出している。恐怖のあまり失禁している。
「た・・・頼む・・・!! こうしろと"学園"の連中に言われただけなんだ・・・!! こっ、殺すな・・・!!殺さないでくれ・・・!! 命・・・!! 命だけは・・・!!!」
「・・・にゃっ!! にゃっははははははは!!! それ一発だけですか、私への用意は!! もっと巨大な銃は? 鋭い刃物は? ゾウをも殺すような猛毒や強酸入りの注射針は? にゃっははははははは!! 軽く見られたものですにゃあ!! めちゃくちゃに恐怖が匂いますよ!! 本当にこれだけなんですにゃあ!! にゃっはははは!!」
腹を抱えて大爆笑するルル。ひとしきり笑うと、土下座した男の顎に爪の長い真っ白な指を添え、上を向かせて至近距離で上から顔を覗き込む。眼鏡越しに怯えきる双眸と、彼女の深海よりも深い青の双眸がぶつかる。
「にゃっひひひ、貴方にはトロフィーにする価値もありませんね。尻尾巻いてお逃げなさいにゃ。子鼠さん。」
バァン!! ルルは指を離した手でそのまま肘打ちを一撃男の顔面へと食らわせた。眼鏡がはじけ飛ぶ。短い悲鳴を上げて男は完全に倒れこみ、ピクピクと痙攣している。
「・・・とんだ子鼠でしたにゃあ。全く、もう少し面白い相手かと思ったんですがにゃあ。残念です。」
・・・ネクロランドの森は特殊だ。無限に続くと同時にどこへでも繋がっている。帰りたい場所を願い、当てもなく歩けばどの現世にも繋がる。夜が明けるころには、彼は勝手に元の世界へ戻っているだろう。ルルは仰向けで失禁し、失神した制服の男を夜の森に放置し、後ろ手に手を組んでスタスタと元来た道を歩いていった。
† † † † †
屍者達の笑い声、ナイフとフォークの音。喧騒。午後8時。ルシッドヴァイン城ダイニングホール。今日も今日とて、住人達の晩餐会は豪勢を極める。
「・・・それでアイツ、私にこの針を撃ち込んで何て言ったと思います? にゃっひひ!!」
テーブルに行儀悪く脚を乗せ、白ワインを片手にほろ酔いで笑い話をするのはルル。片手で2時間前に肩に撃ち込まれた針をお手玉のように投げては掴み。その向かいにはフェリエッタ。ルルの両隣にはエミルとミミル。
「想像もつかないな・・・奴は何て?」
「にゃふっ、『コブラの毒が効かないだと!! 頼む!! 助けてくれ!!』ってあいつ、"マーキング"しながら私に跪いたんですよにゃっひゃひゃひゃひゃあぁぁぁ!!!」
顔を伏せて思わず引き笑いを始めるフェリエッタ。笑いどころが解らずに怪訝な顔を見合わせるエミルとミミル。
「ひっひっひっひ・・・ それでコブラの毒の方は本当に効いてないのかい?」
「んにゃあ、どうも調合ミスですよこれ。多少痺れただけでまるで効いてないですよ。どうせならヤドクガエルの毒でも撃ちこんだ方が私には効いたでしょうにゃあ。にゃっひひひ・・・」
「流石は我が妻だ。」
それを聞いて、不安げな顔を見せるのは賢いエミル。
「ルルちゃん、本当に大丈夫なの? 後から毒が効いて来るとかあったりしないかな・・・ 一応ヴォルフガングの所に行ったほうが・・・」
「大丈夫ですよ。第一針を舐めても毒の味がしないんです。あいつ、消毒液でも間違って撃ち込んだんじゃないですかにゃあ。にっひひひ!!」
「それ、本当に毒なのかな・・・」
「奴の怯え方、瞳孔の動き、会話のトーン。どれを取っても本物の恐怖でしたよ。私は嘘を吐くのが得意ですから、相手の嘘を見抜くのも慣れてるんです。今頃尻尾巻いてどこかの世界に逃げ帰ってますよ!! にゃっははははは!!」
一杯、二杯とどんどんルルは白ワインをボトルから注いで飲む。ルルの酒癖の悪さを知るエミルとミミルはじわじわと椅子を離してルルから距離を取る。大体ルルはワイン3本目で脚をテーブルに乗せて笑い出し、4本目で周りの者達にベタベタと絡み出す。5本目でナイフを出して適当な相手に突きつけ、6本目で銃を乱射し始める。今日は2本目なのに酔いの廻りが速いらしい。
「あら、ルル。もう出来上がり? 今日は随分早いじゃないの」
ふと、頭上から声がした。糸で緑のドレスを着た少女が垂れ下がってくる。ふさふさの毛が生えた6本の脚。赤ワインを片手に持つ2本の姫袖の腕。赤茶色のお下げ髪。8つ眼の眼鏡。"タランテラ"。蜘蛛娘エンデューラだ。逆手に持ったワイングラスを逆さ吊りのまま器用に飲んでいる。
「にゃっふふふ、エンディ!! 今日もぷにぷにのもふもふですにゃあ!! にっひひ!!」
「うふふ、完璧に3本目の調子ね。人でもまた狩ったの?」
「それが・・・にゃっひゃひゃひゃ!! あまりにも弱くて見逃したんですよ!! 私に跪いて"マーキング"ですよ!! にゃっひひひひひ!!」
「無理もないわよ。貴女が貴女だと知ってなら尚更の事ね。」
ルルは行儀悪く仰いだままエンデューラと談笑する。そこでフェリエッタが席を立ち。
「ルル、少し踊ろうか。エンディ、例の曲を。」
「"愉悦者のワルツ"ね。うふふ、任せなさいな。」
そう言うとエンデューラはするすると糸を手繰り寄せる。その先には自作のヴァイオリン。弦と弓には自分の蜘蛛の糸を使っている。それを首に挟み、少し弦の張りを爪で確かめ。荘厳かつ、どこかふざけたワルツを弾き始めた。ルルはぴくりと獣の耳を動かし、椅子からテーブルの上に立つ。フェリエッタも椅子を足場に、テーブルへよじ登る。
「Shall We?」
「にゃっふふふ、どうぞ、ご主人様。」
蜀台を蹴飛ばし、ワインの瓶を倒し。テーブルの上。くるくると行儀の悪いワルツで、二匹の獣達は廻り出す。ルルが酒癖で暴れ出す前に上手くフェリエッタがエスコートした。
・・・ルルとフェルの不躾なワルツを皮切りに、ダイニングホールはさながら舞踏会のように皆が踊り始めていた。20分程も踊っただろうか。エンデューラの演奏が一区切り付くと、ルルは椅子に倒れるようにもたれ掛かった。
「にゅっふふふふぅ・・・ 廻り過ぎて酔いが効いて来ましたにゃあ。私はここらで部屋で寝転がるとしましょうか。猫だけに!! にゃっひひひ!!」
「いい頃合だ。私もそろそろ行くよ。ありがとう。ルル、エンデューラ。」
ふらふらと席を立つルル。それを心配そうに見つめるのはエミルとミミル。
「フェルちゃん、ルルちゃん本当に酔ってるだけ? やっぱり毒にやられてるんじゃない?」
酒瓶片手に首を鳴らしながら、ダイニングを去るルルの後姿を横目で見つめて姉のミミルは言う。
「恐らく心配ないよ。ルルの代謝能力なら、コブラの毒を喰らっていてもああして飲んで寝ればすぐに治るだろう。毒の効能を上回る再生能力が故さ。」
妹のエミルが席を立ち、ミミルに何事かを耳打ちしてからフェリエッタに歩み寄る。
「フェルちゃん、私達心配なので一晩ルルちゃんの様子を見てます。いいですか?」
「ああ。ありがとう。くれぐれも襲われないように。ルルは男女関係ないからね」
「はい!!」
宴も酣。満足した住人達は、自室へと、城下町へと、巣穴へと、墓穴へと。各々が帰路に着く。
† † † † †
深夜1時。フェリエッタは自室で、分解した銃の散らばる机で赤い本に何やら書き加えている。「レジデント・リスト」。ネクロランドの住人達を記録する本だ。15年にも渡るこの悪夢の中で出会った者達を一人残さずに書き記している、悪夢の住人帳。新たに書き加えるのは、先日ここにやってきて共に大冒険をしたシンクレアの事だ。彼女の顔を思い浮かべ、顔を描き始める。彼女の事に想いを巡らせ、歪にゆがんで左右が時折反転する英字で箇条書きを加えて行く。
・・・その時、廊下を走る足音がした。フェリエッタは足音に耳を澄ませ、どの住人かを推測する。重いが軽快な一歩。靴は履いていない。アンバランスな走り方。裸足といえば、このシンクレアかアリスだ。しかしシンクレアは今頃自室で眠りについている頃だろう。ジャラジャラと鎖の擦れる音。となれば、浮かぶのはただ一人。ドアが弾け飛ぶように開く。
「に、にいさまぁぁ!!!」
「おやおやアリス。今晩は。・・・随分と慌てているようだが、イカれたお茶会にでも遅れそうなのかい?」
どんな状況でも皮肉めいたジョークを言うのはフェリエッタの悪い癖だ。
「ちがうの!! にいさま!! ルルねえさまが!! ちがうのよ!! エミねえさまが!! ミミねえさまを!!」
アリスは焦りきった様子で、バタバタと手を振り回して必死に何事か説明しようとする。アリスの知能は一般的なそれと比べて大分低い。こういった説明をするのは不得意だ。
「ルルが違う? 別のルルがいるのか?」
「ちがうの!! ちがうのよねえさまが!! それでミミねえさまとエミねえさまが!! にいさま!!」
めちゃくちゃに乱れた言葉。しかし必死の表情から、例え殺し合いの最中でも何時もゲラゲラと笑っているアリスですら憔悴するような状況なのは明白だ。
「・・・よし解った。アリス。ルルはどこだ?」
「ねえさまの部屋よ!!」
フェリエッタはテーブルの上にごちゃ混ぜで散らばる銃の部品を迷う事なく拾っては組み合わせる。ものの10秒もかからないうちに、バラバラだった部品たちは1挺の銃へと姿を変えた。銃身とスライドを7インチの長いものに交換した古風な拳銃、M1911A1。椅子から立ち上がり、ドレッサーの前に置かれたM1911A1の弾倉、マガジンを取り、銃に叩き込んでガンベルトに収める。ガンベルトに収納された弾薬の数を確認する。M1911A1のマガジンが2つ、銃内部の弾と併せて計21発。20秒ほどで戦闘準備を終わらせ、手招くアリスに付いて行く。廊下を駆け抜け、この東塔の端の部屋から西塔端のルルの部屋へと急ぐ。ルルの部屋が近付くと、鉄錆のような異臭が鼻を突いた。枯葉のような臭いの混ざる血だ。それは屍者の血の臭い。フェリエッタは走りながらM1911A1を抜く。そして、開け放たれたルルの部屋のドアに飛び込んだ。そこには。
ザクッ。ザクッ。ザクッ。ザクッ。
「ルルちゃん・・・ 止めて・・・ 一体・・・」
屍猫姉のミミルに馬乗りになり、何度もミシンのようにその急所を突き刺し続けるルルと、首と下半身のない妹エミルの上半身が転がっていた。一瞬、目を見開いて驚愕するフェリエッタ。幾らルル酒癖が悪いとはいえ、ここまでではない。
「ルル!! 何を!?」
フェリエッタの叫び声に反応し、バッと顔を上げたルルのその瞳孔はまるで満月のように開ききっていた。耳まで裂けるほどに歪んだ笑みを零す口元からは、大量の涎が垂れていた。
「ニィギヒヒヒヒヒヒ・・・!!」
明らかに正気ではない。後ろからアリスも駆けつける。
「ねえさま!! やめて!! ねえさま!!」
アリスがルルに飛び掛った。取り押さえようとする。しかしルルは馬乗りの体勢のままゴロンと右に転がり、アリスの飛び込みを回避する。結果的にアリスが重傷のミミルにボディプレスをかける形になってしまう。
ドスン!!
「ぶげえぇぇぇ!!?」
錆色の血反吐を勢いよく口から吹き出して悶絶するミミル。心臓も肺も内臓もめちゃくちゃだが、所謂ゾンビである彼女は元々死んでいる。これは彼女にとっては大した傷ではないが、痛みは生者同様に感じてしまう。顔面に血反吐を受け、目を瞑るアリス。その一瞬の隙を突かれ、正気を失ったルルに掴まれる。そしてぐるりと回転して反動を付け、ルルはアリスを窓へと放り投げた。バシャアアアアァン!!! 耳を劈く破壊音がして窓枠とガラスが粉々に弾け飛ぶ。そのままアリスは窓の外へと真っ逆さまに落下していった。
ギロリ。振り返ったルルはフェリエッタを見開いた眼で睨み付ける。その顔は感情のない笑い顔で、背筋の凍るような狂人のそれだ。フェリエッタは両手で銃を構え、ルルとの距離を保つ。一歩近付いて、一歩離れる。1秒以上同じ距離を保てば、引き金を引いた瞬間にそれを読んでかわされ、一瞬で串刺しにされてしまうだろう。近すぎる。ここでは勝てない。フェリエッタは自身の窮地を悟っていた。その時、部屋の隅に転がるエミルの生首が視界に入った。肺と分断されているので声が出ない。パクパクと口を動かし、しきりにアリスが放り投げられた窓の上に目配せする。そこに何かある。フェリエッタは確信する。エミルの唇の動きを読む。
"ニ・ゲ・テ・・・"
「言われなくとも・・・!!!」
ズダァン!! ズダアァン!!
フェリエッタはルルに向けて発砲した。1発、2発、だがそれをルルは最小限の動きでかわして恐ろしい速さで迫り来る!!
ズダァン!!
3発目。ルルが回り込もうとした方向に反射的に銃を向け、片手腰撃ちで牽制する。一歩ルルが動きを止めて戻る。フェリエッタは窓へと飛び込むように走り出す。一瞬、ルルの動きが止まった。予想外の動きだったか。
・・・いや、違う。
それを見て、フェリエッタは少しだけ安堵した。そこに勝機を見出したからだ。背後、ぐるりとルルが振り返り追って来る。ダァンダァン!! 肩越しに銃を向け2発発射する。それをかわす為、僅かにルルが遅れる。そしてフェリエッタはめちゃくちゃに壊れ、ただの穴となった窓枠に足をかけ、そのまま12階から虚空へと飛び出した。空中でぐるりと仰向けの体勢を取り反転し、銃を今飛び出した窓枠に向ける。いつものルルなら確実に空中で飛びついて、フェリエッタが着地する前に空中で刺して来るだろう。だが、ルルは窓枠で立ち止まったままこちらを見ている。見出した勝機の読みは当っていた。
そして、その窓枠の真上に人影があった。特徴的な意匠の付いたコートとスーツの中間のような奇妙な制服。青黒の短髪。キラリと眼鏡が月夜に反射した。手には怪しげな小型の無線機のような機械。空中で目線がぶつかる。それは恐怖に満ちた若い学徒の顔と、眼に絶対の殺意を込めた怒りの悪魔の顔。
「貴様か!!!」
ズダァン!! ズダアァン!!
フェリエッタは仰向けに落下しながら、その人影に向かって両手で銃を握り2発発射した。そこで銃はホールドオープンして弾切れを知らせる。放った銃弾は人影のすぐ近くの屋根の雨どいに命中し、火花を散らす。
ヒュゴオオォォッ!!! 落下速度が増し、地面が近くなる。フェリエッタの体力は常人のそれよりもだいぶ弱い。こんな高さから飛び出したはいいが、普通に着地するなど不可能だ。このままでは常人と何も変わらず、今宵は落下死するだろう。ぐるりと再び体勢を立て直し、両手を広げて着地点を調整する。その真下には・・・
「うう・・・ねえさま・・・何で・・・」
「アリス、悪い!!!」
ズムギュウウウッ!!!
「ギヒャアアアァァーーーッ!?」
・・・フェリエッタは、先程窓から投げ飛ばされ、地面にめり込んで仰向けに倒れていたアリスの上に丸まって、全身で受身を取りながら12階の高さからダイブした。アリスは絶対不死身の生物兵器かつ体重85キロのふくよかな少女だ。対戦車砲で撃たれてもびくともしない上、柔らかい。フェリエッタは最初から娘のアリスをクッションにするつもりで窓から飛び出したのだ。数トンにも及ぶ衝撃はアリスの耐衝撃仕様の全身にうまく吸収され、フェリエッタは全身を打撲したものの何処の骨も折っていない。しかしアリスは腹部にその衝撃をもろに受け、涎を吹き上げてそのまま失神してしまった。
「っっうぅぅぅ・・・」
フェリエッタも強く身を打った事で軽い呼吸困難に襲われる。地面にめり込んで泡を吹き、完全に失神したアリスの上からゴロゴロと転がって離れ、銃を杖にして立ち上がる。がくり。力が入らずに一度膝をつく。その姿勢のまま、飛び出した窓枠を見る。ルルは外壁にしがみついて少しずつ降りてくる。ここでもフェリエッタは勝機をまたひとつ見出す。その窓の上、12階の天辺の人影を睨み付けると、そこまで届くように声を張り上げた。
「おい!! そこの畜生め!! 聞こえるか!! お前がルルを操っているのは眼に見えているぞ!!」
青黒の髪の学徒はその声に気圧されながらも、言葉を返す。
「ち、畜生だと? バケモノはそっちだろ!! 笑わせるな!! 僕は対怪異学園2年、技術部、タイロ!! 特一級ターゲットのお前達を狩りに来た!! 見ての通りお前の相棒のルルは僕の制御下にある!! 制御用ナノマシンを撃ち込んだんだよ!! このダートガンでね!!」
タイロと名乗った学徒の男は、腰から小型の銀色銃のようなものを取り出して月夜に反射させる。全てが繋がった。昨日ルルが出会った妙に弱い人間のハンター。ルルが撃ち込まれた妙に弱い毒。そしてルルの異常の原因。全てこの男の策の中だった。
「随分と大変だったよ!! 特一級ターゲット、ルル・ホワイトハート!! 僕は研究したんだ!! 特にその性格をね!! 狡猾で抜け目ないが勝ち誇ると途端に油断する!! 自分より弱いと悟った相手にはトドメを刺さない!! 僕はあえて負けたんだ!! 今ここで勝つ為にね!! この送信機から信号を送れば、そいつがお前を殺すようナノマシンがコントロールする!! 全ての感情と思考はナノマシンによりカットされている!! 下らない感情でお前を殺すのを躊躇しない、完全なる僕の操り人形になったのさ!! 僕の学績の為だ!! フェリエッタ・バリストフィリア!!長年連れ添った相棒に殺されて、死ね!!」
ルルが外壁から飛び降り、目の前に着地した。狂人の笑みを浮かべ、ナイフをフェリエッタに向けて構える。その構え方は・・・正手構えだ。いつもの逆手構えではない。距離はおよそ20m。フェリエッタは空になった銃の弾倉を抜き落とし、新しい弾倉を装填する。チャッ。スライドを戻し、それを片手でルルに向ける。よろよろと立ち上がり、そして、にやりと笑った。
「・・・タイロ、お前はルルの事を少しも理解していない。何故彼女が強いのか、何処が彼女の弱点なのか。そして最大の誤解は、な。」
ルルが踏み込んだ。
「・・・ルルは"相棒"じゃない。」
ダァン!!
フェリエッタがルルの眉間めがけて発砲する。それを頭を左に捩って回避し、なお突進を続けるルル。ダァンダァン!! 避けた先を予測して再度2発発砲。ぐるり。ルルは全力疾走の姿勢を崩して右に大きく飛び上がり、空中で一回転する。ズダァン!! その着地点めがけてさらにフェリエッタが発砲する。
ビスッ!!
「ニャギャッ!!」
ルルのスカート越しの右足に銃弾が命中した。がくりと一瞬動きが乱れる。しかしそのまま再度獣のように踏み込んで、ナイフを真正面に両手で突き出して猛突進してくる。距離は3m、2m、密着。
ガキイィィン!!
フェリエッタは咄嗟に銃をナイフめがけて突き出す。銃口に刃先が嵌り、突きを防御する。そしてそのまま引き金を引いた。
ズダァン!! バキイィン!!
ゼロ距離での発砲。銃弾は銃口から出る寸前に、銃口に突き刺さったナイフで真っ二つに分断され、ルルの防弾コルセットの両脇腹を抉る。ヂュイィン!! 割れた弾丸は両方ともコルセットの表面で滑り、ルルにはダメージを与えられない。撃たれた反動でナイフごと後ろに飛び退くルル。フェリエッタもナイフを受けた反動で後ろに転び、ゴロンと一回転して立ち上がり、再びルルに銃口を向ける。
「ハアッ・・・ハアッ・・・ニギャヒヒヒ・・・!!」
「おかしいな、Baby。何時もの挑発はないのかい?」
「コロス・・・ フェル・・・ コロス・・・!!」
獣のようにフェリエッタを睨め付け、ナイフを胸の前で構えるルル。その言葉に理性は感じられない。その光景を見下ろすタイロは勝ち誇ったように高笑いする。
「ふふ、はっははははは!! フェリエッタ!! 相手が最も親しい者とあって手加減してるんじゃないのか? 残念ながらこの洗脳を解く事は不可能だ!! 僕の作ったナノマシンは血管から注入されれば、大脳に留まって思考回路の全てを制御する!! もうこのバケモノ女は一生僕の操り人形なんだよ、解ったら全力でやってみろ!! もうこいつを救う事はできないんだからなあ!!」
「・・・成る程、大脳か。助言をありがとう。タイロ。方法が見定まった。」
「何を言ってやがるんだ? 戯言を!! ほら、醜い猫女め!! かかれ!!」
タイロが端末を何やら操作すると、再びルルが突進してきた。眼を見開き、涎を垂れ流し、一直線に襲ってくる。ダァン!! 発砲。右にかわされる。ダァン!! 今度は左にかわされ、銃のスライドがホールドオープンして弾切れを知らせた。弾倉を抜き落とすフェリエッタ。ルルは勝利を確信して突き進んでくる。その瞬間を狙い、銃から抜け落ちて、地面へ転がる寸前の弾倉をフェリエッタは思い切りルルの顔面めがけて蹴飛ばした。
カァン!! バキイィッ!!
「ミギャアアァ!?」
避けもせず、もろに顔面にそれを受けたルルは一瞬眼を瞑り、ナイフの構えを解いて顔を覆う。だが突進は止まらない。再装填の時間はない。顔を覆うナイフを握った手を大振りで頭上に掲げ、両手での振り下ろしがフェリエッタの顔面を狙う。それにフェリエッタは弾切れの銃を掲げ防御の姿勢を取る。
ガキイィィン!!
銃とナイフが火花を散らしてかち合った。ギリギリと互いに鍔迫り合いに力を入れる。ルルの方が遥かに力が強い。フェリエッタは押され、どんどんナイフの刃が顔面、それも左目めがけて近付いてくる。フェリエッタはそれに瞬きもせず、意にも返さず。左腕を自分の後ろ襟に回した。
「ルル、悪いな。」
ズダアァン!! バシャアアァッ!!
・・・血飛沫が噴水のように吹き上がった。互いの顔がその血飛沫で真っ赤に染まる。タイロは息を呑む。どちらかが死んだ。どちらが死んでも、彼の"対怪異学園"内での名誉は絶対的なものになるからだ。目を凝らして戦いの結末を見るタイロ。そして倒れたのは。
・・・どちらも倒れない。倒れずに微動だにもしない。おかしい。相打ちか。居ても立ってもいられなくなったタイロは、雨どいを伝って12階の屋根からじわじわと地上へ下りる。8階、6階、4階ベランダ、2階。飛び降りて駆け寄る。そこで見たものは。
・・・頭が弾け飛んだルルを抱きしめ、自分の首筋にルルを噛み付かせ、血を吸わせているフェリエッタだった。決着の瞬間、ナイフが左目に突き刺さる一寸前にフェリエッタは後ろ襟に隠した小型のリボルバー、M36を抜き、ルルの右こめかみに突きつけてゼロ距離で引き金を引いたのだ。銃弾はルルの頭右上を吹き飛ばし、脳漿が飛び散り脳が露出している。タイロはそれを見て、ルルの死とフェリエッタの失血死を確信して笑みを零す。
「はは・・・はっはははは!!! ドラマチックな幕切れじゃないか!! フェリエッタ!! 自らの手で長年連れ添った相棒の頭を吹き飛ばして、それで自分は喉を噛み切られて死ぬとはなぁ!!やったぞ!! 特一級ターゲットを2人も仕留めたんだ!! これで僕は学年一位の称号を得られる!! あいつもこいつも、もう敵でもなんでもないのさ!!」
「・・・タイロ。本当にお前は詰めが甘いよ。このナノマシンを作る辺り、確かに頭はいいんだろう。しかし今の君は大悪手を踏んだ。」
「悪手だって? はははっ、もうすぐ失血死するお前に何を言われようと関係ないね!! ルル・ホワイトハートも死んだ!! お前が殺し・・・」
「死んでないよ。"毒抜き"しただけさ。」
その言葉に、タイロは笑みを凍りつかせる。まさか。その時、死んだと思われたルルがフェリエッタの手の中で動き始めた。
「にゃうぅぅぅ・・・ 頭痛が・・・ ご主人様、一体何を? 私は二日酔いですか?」
「お目覚めかい。ルル。悪い酒に当ったみたいだね」
死んだはずのルルが目覚めた。タイロは声にもならない悲鳴を上げる。
「あ・・・な・・・何故だ・・・不死身とはいえ・・・そんな・・・ぼ、僕のナノマシンは・・・!?」
タイロは必死に洗脳端末を何度も操作する。しかしまるで反応しない。それを見てフェリエッタは失笑を零す。
「ふふ・・・これを見て解らないのか? タイロ。お前はナノマシンが大脳を支配すると言ったな。大脳の血管から。これだけの血がそこから流れ出したら、お前のナノマシンは全て流れ出して、今頃この土の上だよ。」
「あ・・・そんな・・・馬鹿な・・・ じゃあ・・・頭を吹き飛ばしたのは・・・!!」
「そう。ルルはこの程度ではびくともしない。私の血を与えればこうしてすぐに再生する。洗い流しただけだよ。お前の汚いナノマシンとやらを」
ルルは子猫のようにフェリエッタに頬ずりした後、ふと自分の頭に大穴が開いているのに気付く。脳味噌を指で触りながら、少々ばかり取り乱す。
「にゃ・・・にゃあぁ!? ご主人様!? 何をしたんですかこれ!! まさか撃ったんですか!? 私そんなに酔ってました!?」
「ああ。悪酔いだったよ。そしてその酒を注射器で盛ったのは、あそこにいるあいつだ。」
フェリエッタの腕を離れ、ふらり、ふらりと歩みを進めるルルはタイロの方を見る。タイロが再び震え上がる。こうなればもう、タイロに勝機は一つもない。
「にゃっふふ・・・ 解りましたよ・・・ あなたの撃ち込んだ注射針で私は正気を失い、仲間を襲ったと・・・ 一本取られましたにゃあ・・・ 子鼠さん?」
「ヒイイイィッ!!!」
「あの時めちゃくちゃに殺しておけば良かったですにゃあ・・・ さあ、どう料理してくれましょうか?」
フェリエッタは小脇にM36を挟み込み、ナイフの痕がくっきりと銃身下に刻み込まれたM1911A1に予備のマガジンを差し込む。そして右手にM1911A1、左手にM36の二挺拳銃をタイロに向けながらゆっくりとタイロへ歩み寄る。
「ここに11発ある。急所は全弾外してやる・・・ その後にルルが好きに料理しな・・・!!」
「にゃっふふ・・・ 眼には眼を、歯には歯を、脳味噌には脳味噌ですにゃ・・・!!」
全てを覚悟したタイロは、力なく膝を付いた。そのまま両手を付き、眼鏡を捨てて、泣き出した。
「クソッ・・・ ちくしょう・・・!! 最期まであいつにやられっぱなしだった・・・!! 僕の人生は・・・クソ・・・!! セラ・イビス・・・ せめてあのクソ女をめちゃくちゃにしてやりたかった・・・!!」
ぴたり。全身血みどろで迫り来るルルとフェリエッタ、二人の歩みが止まった。
「・・・タイロ。今セラ・イビスと言ったか?」
「・・・どうしたよ、それがどうした!! とっとと僕を嬲り殺せ!!」
「いえ、そのセラ・イビスとやらを気に入らないのは我々も同じなんですにゃ。ここまでしておいて何ですが、もしかしたら利害が一致するかもしれませんよ?」
「・・・!? な、どういう事だよ!? あのクソ女の何を知って・・・」
「にゃふふ、昨日ですよ。うちの居候を襲っていたそいつを生け捕りにしたんです。死んだと思ったんですが、しぶとく生きてまして。口を全然割らないんですにゃ。学園の事を聞きだしたいのに。」
† † † † †
30分後。ルシッドヴァイン城。入り口を入って右手廊下側すぐの扉。「INFIRMARY」、医務室。急遽駆けつけたセクシーな狼"男"の医師、ヴォルフガングによって全ての負傷者と"犠牲者"の手当てが済んだ。ルルにメッタ刺しに遭った屍猫姉妹、姉のミミルは内臓も全て元通りに縫合され、首、上半身、下半身とルルに分断された妹エミルも全ての箇所を完璧にヴォルフガングによって縫合され、元通りになっていた。ルルは吹き飛んだ方の頭に包帯を巻き、フェリエッタは痛み止めの注射を打ってもらっていた。
「・・・これでよし、と。うふふ、暫くぶりに腕を振るえたわねぇ、ルルちゃあん? 全く見事なものよ・・・ 一発でザックリでしょ?」
「いえ・・・ 正気でなかったとはいえ、恥ずかしい限りの切り口ですにゃこれ。本当に私が斬った痕ですか? 断面がギザついてますよ? 一撃で切断できてないですよ・・・」
ルルが縫いたてのエミルの胴体を指で撫で回しながら言う。エミルは複雑な表情を浮かべて眼をそらしている。
「ルルちゃん・・・ あ、あの・・・」
「にゃふふ、申し訳なかったですね、エミルさん。この斬られ方ではだいぶ痛かったでしょうに」
「そ、そっちなのね・・・」
その医務室の端。精根尽き果てた顔を浮かべてベッドに項垂れて座るのは、タイロ。ルルに殴られた部分に絆創膏を貼られている。その隣にフェリエッタが脚を引きずりながら座った。
「・・・どうやら飛び降りた時に脚を痛めていたようだ。タイロ、そっちは?」
「何でもないさ、こんなもの・・・ 慣れてるからな・・・」
「そのセラ・イビスの話だろう?」
「・・・ああ。僕の居た"現世"では、こういうこの世とあの世の中間に位置する場所と現世を行き来できる、特殊な力を持った子供を政府が選抜し、殆ど強制的に入学させられる学校があってね。"対怪異学園"だよ。」
「そういう組織だったのか。奴も名乗った。対怪異学園、拷問部2年、セラ・イビスと」
「・・・そんで、入ったはいいが僕はみんなに嫌われ、狙われてね。どうもこの性格とパッとしない見た目のせいだったようだ。とにかく、誰も僕の味方はあそこにいないんだ。しかし他の行き場所も僕は探せなかった。」
「それで、あの女か。」
「そう、はは、話がわかるなぁ、あんた。奴は同期の拷問部所属。部活の練習と称して、何度もあいつらに練習台にされたって訳さ。見てくれ、この爪を。めちゃくちゃに歪んで薄いだろ? 何回あの女どもに剥がされたと思う?」
タイロは笑いながら、歯を噛み締めていた。その眼には確かな憎悪。
「・・・あの女よりも成績で上に立てば、実働実習で班長、上官に任命される決まりがある。そうしてアイツをめちゃくちゃにこき使ってやりたかったのさ。やられた分を返そうとね。その為にはフェル、そしてルル。あんたらの首が必要だったんだ。お二人には何の恨みもないよ。全ては僕の個人的な復讐、あの学園と、そしてセラ・イビスに対しての、ね・・・」
「タイロ。お前の眼の怒り、気に入った。私の妻を操って、一瞬死なせた事を許しはしない。だが、お前はどうも敵の気がしない。私のこの悪夢にいる連中とよく似ている。そして行き場所なら、ここには五万とある。」
「おいおい、僕は人間で、敵だぞ? 僕と同じ制服の連中がお前の仲間を甚振ったのを、ここの皆は見たはずだ。また仲間はずれの輪に放り込むってのかい? それより、あんたの銃を貸してくれよ。弾は1発でいいんだ、1発で・・・」
「・・・では、こうしよう。」
フェリエッタは、先程ルルの頭を撃ち抜いたM36を取り出して、回転式のシリンダーを開いて弾を全て抜き、シリンダーを閉じ、くるりと手の中で反転させてタイロに渡した。
「これは信頼の証だ。3時間待ってくれ。見たところ何も喰っていないだろう? 奢るよ。人間用の料理をね。そのコース料理の最後に、この銃の弾をやろう。最期のデザートを鉛弾にするかどうか。それは食後の満腹感で決めるといい・・・」
† † † † †
「アイサー♪ 人間様人間様、デミグラスソースのステーキですヨー♪」
骨の露出して片腕に泡立て器を巻きつけたウサギ耳の屍娘が、ダイニングホールの中央席に座るタイロに熱々の料理を運んできた。
「あ、ありがとうございます・・・」
タイロは完全に拍子を抜かれた顔をして、ただその小さな屍娘に頭を下げる。
「ごゆっくりー♪」
奇妙なサインを指の残る方の腕でして、その屍娘はキッチンへと去る。深夜3時。ルシッドヴァイン城ダイニングホール。本日最初の晩餐会は飛び入り客だ。その向かいにはフェリエッタ。アリスとエミル、ミミルもいる。頭上ではエンデューラがヴァイオリンを奏でている。あまりの拍子抜けに、タイロは放心したまま動かない。
「にゃっふふふ、食べないのなら私が頂きますよ?」
タイロの右横からルル。切り分けられたステーキを一枚つまみ食いする。
「・・・んー、毒は入っていないようですにゃあ。所でタイロさん、コブラの毒が効かないと私、言いましたよね? あれは嘘です。本来なら毒や薬の巡りは代謝が早い分、常人よりも効く筈なのですにゃ」
「・・・やはり僕のリサーチ通りだったなぁ。逆に言うがさ、あれはコブラの毒じゃない。僕が開発した洗脳用ナノマシンだ」
「にゃっふふふ、互いに嘘の痛み分けですにゃあ。・・・お客人に飲み物がまだですね。ガロッタさーん!! お客人に赤ワインをー!!」
ルルがガロッタに飲み物を要求する。それを先程と同じサインをしてガロッタは答える。酒の注文に、思わず我に帰るタイロ。
「あ、あの僕、未成年で・・・」
「にゃあ? それがどうしました? ステーキには赤ワインが一番ですよ?」
「いや・・・僕のいた世界では未成年の飲酒は重罪なんだよ・・・」
「にゃっふふふ・・・ お真面目なんですにゃあ。ここの何処にそんな法律があると思います? それにあなたはもう向こうには帰れない身。この晩餐会のラストで死ぬか、こちらに永遠に留まるか。いわば最期の晩餐ですよ? 遠慮せずにお飲みなさいにゃ。」
ガロッタが赤ワインとグラスを持って来て、タイロの目の前に置く。トクトクとグラスにワインを注ぎ、その横にボトルを置く。それをタイロは少し躊躇してから、一気に飲み干した。
「・・・っぐはぁ!! 不味い!! 苦すぎる!!」
それを見たルルとフェリエッタは思わず大笑いする。
「・・・っくくくく!! 一気に飲むものじゃないよ。一口ずつ、料理と一緒に飲むものだ」
「にゃはははっ、確かに苦いかもしれませんにゃあ!! グレープスパークルの方が良かったですね」
初めての酒にグラリと来たタイロは、思わず釣られて笑う。それはタイロが対怪異学園に入れられてから、初めての純粋な笑顔だった。自分が笑った事に驚きを隠せないタイロ。
「・・・僕が笑うなんてな」
「にっひひひ・・・おかしいのはこれからですよ!!」
† † † † †
晩餐会開始から2時間半後。テーブルには6本ものワインの空瓶。その殆どをタイロが飲み干した。
「・・・それでなあ!! 僕は絶対に間違ってると思ってたんだよ!! この世界の悪しき異形を罰す? それは人類の平和の為? 我らは礎? こんな僕みたいな弱者!! そう弱者だよ!! それの上におっ立つクソ社会なんかを守る価値なんかカケラも無いじゃあないか!! なあ!?」
「・・・極めて同意に値するね。下々の者を幸福にできない社会など、革命されて然るべきだ」
「おっ!! フェルさんもそう思うかよ!! だよなぁ!! だよなぁ・・・ううう・・・ 僕はなぁ・・・」
怒ったと思っては泣き、泣いたと思えば怒り。タイロは完全に出来上がっていた。
「ギヒヒィー!! タイロにいさま!! ガロッタがケーキ作ったわよ!! たべない? わたしと?」
横からアリスが両手でケーキの乗った皿を掲げて走ってくる。
「にっ、にっ、兄様・・・だって!?」
「そうよ、タイロにいさま!! なんか変だったの?」
タイロは酔って真っ赤になった顔をさらに赤くして、顔を伏せてブツブツと何事かを呟き出した。
「まっ、まっ、マジかよ・・・!! こんな小さな女の子が僕の事を"兄様"だって・・・!? フフ、フフフフフ!! フッフフフ!! 夢だ、ああこれは悪夢だよ!! ああ、ああ!!」
「どうしたの? タイロにいさま? ケーキたべないの?」
「あ、アリス、ちゃ、ん!! たったた食べるよ!! 僕がアリスちゃんを・・・じゃない!! 失敬!! そうじゃないっ!! アリスちゃんのケーキを食べるよ!! 違うっ!! 語弊!!」
「ギヒヒヒヒ!! なら一緒に食べましょ!! タイロにいさま!!」
「フ、フフフフフフフヒヒ!!」
どうやらタイロという、この年端もいかない17の男はこういうのに憧れていたようだ。失笑を抑えきれないフェリエッタが思わず口を挟む。
「・・・私の娘、アリスは誰に対しても"にいさま"、"ねえさま"でね。」
「ああ!! リサーチ済みだ!! でもいいんだよ!! いいんだ!! いいんだ・・・フフフフフ!!」
「タイロにいさま!! あーんして!! あーーー!!!」
「あーーーーーッ!!!」
・・・随分と幸せそうな光景だ。タイロの選択はもう既に決まっていたが、そこにフェリエッタは釘を刺す。
「所でタイロ。そろそろラストメニューの時間だ。・・・ガロッタ!!」
「アイサー♪」
ガロッタは上にクローシュと呼ばれる銀色の料理蓋が乗った中皿を持ってきて、その蓋を取った。
「ごゆっくりー♪」
中には、一発の銃弾。それがぽつりと立てて、料理皿の上にあった。酔いが回って出来上がったタイロの顔が急に青ざめる。フェリエッタはテーブルの上で両手の指を組んで、それに顎を隠した。
「・・・さて、約束のラストオーダーだ。タイロ。君に渡した銃に合う弾だよ。残すもよし、食べるもよしだ。」
タイロはひどく動揺する。そして考える。そう、ここまで命懸けで来た。全ての賭けに負け、とうの3時間も前に自分はこの二人に殺されているはずだった。それを"敵"の計らいで慈悲にあやかり、飲酒という元の世界での罪を犯し、そして無様の上に無様を晒して今ここにいる。腰のベルトに挟んだ銃を引き抜く。黒に赤のグリップ。メダル部分には、スペードに悪魔の羽、猫の頭蓋骨。交差させた銃のフェリエッタの紋章。S&W、M36。チーフスペシャル。5連発。シリンダーを開き、震える手で銀の皿に光る金の銃弾を拾い上げる。僅か数十グラムのはずの銃弾が、ひどく重く感じる。それを恨めしく覗く5つの蓮根穴の一つに納め、シリンダーを戻す。タイロはふと思いつく。ここでロシアンルーレットをすれば。それはそれはどう転んでも様になるのではないか? と。
・・・そんな事を考えていた矢先、フェリエッタが口を開いた。
「・・・実は、サイドメニューを用意してある。・・・ルル!!」
「にやっはぁーい!! さあさあ、ステージにご注目!!」
ダイニング脇にある、楽団用の小さなステージ。その幕が開いて現れたのは・・・
「この・・・ッ!! クソ猫共!! 私は・・・ セラ・イビスよ!! 判らないの!? 学園イチのサディスト美少女にこんな無礼を働いて・・・」
有刺鉄線で椅子に縛られ、全身から血を流すセラ・イビスの哀れな姿だった。タイロは思い出す。セラ・イビスを捕らえていたというルルの話を。その姿を見た瞬間、タイロの眼の色が変わった。全てを諦めた顔が、全てを見据えた復讐者の顔に変わる。それを見てフェリエッタはにやりと笑った。
「そのデザート。何も君だけが食べていい訳じゃない。君の"旧友"にお裾分けしたいのなら、そうすればいい。ただ、あるのは1発だ。さて、どう召し上がる?」
・・・タイロは椅子から立ち上がる。もう震えていない。一歩、一歩と力強く、"真の仇"の元に踏み出していく。手には実弾入りのリボルバー。ボコボコに腫れ上がった顔で、辛うじて開く右の紫の瞳でそれを見たセラ・イビスは、バタバタと椅子の上で抵抗する。しかし有刺鉄線が体中に食い込み、血が噴出す。苦痛の叫びを上げながら、タイロを罵ろうとする。
「こんのっ・・・ ゴミ豚!! 実験台!! ゴミ豚の分際で・・・ッ!! 私を殺すなんてっ・・・!! それも銃で!? この卑怯者!! それは特一級ターゲット、そこのカス猫フェ"ラ"エッタの奴じゃない!!裏切り者!! とっとと水責めで事故のフリして殺しておくべきだっ・・・」
バキィッ!!
前々日、フェリエッタにめちゃくちゃに叩き潰され、頬骨が折れて腫れ上がったセラ・イビスの顔をタイロは思い切りまた銃で殴り付けた。
「・・・おい。セラ。てめえ。僕にした事をここで謝れ。そうすれば生かしてやる。」
「ゲフッ!! ゲフッ・・・ は、ハァ? 何言ってんの・・・ゴミ豚が!! 私がゴミ豚なん・・・」
カチリ。タイロはセラ・イビスの顔にリボルバーを向け、撃鉄を起こし。そして容赦なく引き金を引いた。
チキッ!!
「ヒイィィイィィィッ!!」
・・・弾は出ない。空の薬室に当った。
「てめえ。クソ女。僕の事を侮辱してみろ。何度でも引き金を引いてやる。」
「あ・・・あんた・・・なんかに私が謙るとでも思ってんの・・・? あ、あはは・・・ このゴミぶ・・・」
チキッ!!
「ヒィヤアァァァ!! イヤァァァ!! 解った!! 解ったってば!! ごめんなさい!! 死にたくない!! 死にたくないですっ!! どうか許して下さい!! この通りですっ!!」
「この通り・・・? どの通りだよ、このメス豚。」
「め、メスブ・・・ このゴミ・・・」
そこまで言った時だった。タイロがふと振り向いてルルに言葉をかけた。
「・・・なあ、ルルさん。こいつを捕まえてから、こいつに鏡を見せたか?」
「いえ? まだですにゃ。・・・にゃっふふふふ!! タイロさん、見直しましたよ貴方!! よく解ってるじゃないですか!!」
そう言うと、ルルはダイニングホールの壁にかけられた小さな姿見を外して持ってきた。
「さあ、ご覧くださいよ、セラ・イビス。巨乳で、秀才で。"S"な美少女を探してくださいよ?」
そこに反射したのは、歯が折れ、鼻血を噴き出し、口紅とアイシャドウがドロドロに垂れ。自慢のピアスは全て引き千切られて皮膚がめくれ上がり。原型を留めない程顔の腫れ上がった、それは醜い醜い、化粧の下手なピエロの顔だった。
「あ・・・ あっ。あっ、こんなの。そんな。えっ? 嘘。い・・・嫌・・・!! 嫌!! 嫌嫌嫌イヤイヤイヤ!!! あ゛ぁ゛あ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!」
それはそれは、世の無様を極めたような。2才の駄々っ子のように地団駄を踏み鳴らし、泣き喚いて絶叫、発狂するセラ・イビス。何の感情もない顔で、タイロはそれを見下す。
「・・・これも"リサーチ済み"なんだよ。とっくの昔にね。メスブタ。てめえは自分の顔が大好きなナルシストだ。そして学園での悪行も、顔で全てを許されてきた。その顔を奪われた気分はどうだよ。なぁ、教えろ。言えよ、メスブタアァァァ!!!」
バキイィッ!!
「オボゲエェェェ!!!」
タイロは再び銃でセラ・イビスの潰れた顔面を思い切り殴り付ける。その一撃には今までの全ての憎悪と怨恨が篭っていた。歯がもう2本折れ飛び、さらに鮮血が醜いピエロの顔に新たな血のメイクを塗りつける。そして、タイロは銃をセラ・イビスの額に突きつけた。
「最期に、何か言う事は?」
「コロ・・・ コロシテ・・・ ころして・・・ ください・・・」
「・・・そうだ、僕が『やめて下さい』と言った時、てめえはどうしたっけな。」
「ヤダ・・・ ヤダよ・・・ もう・・・ 生きていたくない・・・ッ・・・」
「・・・それと逆の事をされたっけな。」
タイロはセラ・イビスの顔から一旦銃を離し。
・・・顔の真横から、鼻に銃を突きつけた。そして。
「てめえは、殺さねえ。これから。メスブタとして生きていけ。」
ズダアァァァァァアン!!!
ビグシャアァァアアッ!!!
「あっギャアァァァアァァァアァァァァァァァァァァーーーーッッ!!!!!」
タイロはセラ・イビスのそれはそれは高い鼻"だけ"を、リボルバーで撃ち飛ばした。完全に発狂し、この世のものとは思えない絶叫を上げるセラ・イビスの鼻は吹き飛ばされ。残ったその根元からは頭蓋の鼻孔が露出し。
高さのない、大きな二つ穴を開けるそれは。まさに豚の面そのものだった。
† † † † †
3日後。ルシッドヴァイン城。地下4階、牢獄跡。点々と鉄と木で作られた重厚な独房の扉が並ぶ。その廊下で、タイロは冷たい石畳の床に座り、牢獄の壁にもたれかかってくるくるとあのリボルバー、M36を廻していた。グリップのメダルを見る。フェリエッタのエンブレム。全体に施された優美な彫刻。その底面は一度削られ、「TAIRO」と文字が刻まれていた。ガチャリ。タイロのもたれていた2つ先の扉が開き、中から医師、ヴォルフガングが出てきた。片手には大きな医療鞄を持ち、チャイナドレスの上に黒革のエプロンをつけている。タイロはリボルバーを元はダートガンが入っていた自作のホルスターに収めて、姿勢を正す。
「タイロちゃあん、ご依頼の処置が終わったわよぉ」
「・・・あ、ええ、ヴォルフガングさん。あ、ありがとうございます」
「んっふふ・・・ ごめんね、ちょっと"お代"を取り過ぎちゃったかも。私ったらガラでもなく興奮しちゃってね? それで・・・3発も・・・」
「3発・・・?」
「あらぁ!! 解らないの!! まぁまぁまぁ、これは素敵な子ねぇ!! うふふふふ!! 解らないならそれが貴方の魅力よ。そのままでいて頂戴な♪」
「え? あ・・・はい。」
「じゃあね? あんまりおイタしちゃ身体に毒よぉ♪ たまには私の所に"健康診断"に来てねぇ♪」
「すみません、ありがとうございます」
後ろ手を振り、ヴォルフガングは地下牢獄の廊下の闇に消えていく。タイロは部屋の前に置かれた、トング入りのブリキのバケツを持ち上げる。その臭いに顔をしかめ、中身からは眼を逸らす。そして、ヴォルフガングが出てきた扉の中に入る。そこには。
「・・・ピギイィィーーッ!! ブヒィィィーーー!!」
・・・奇妙な豚がいた。顔面は完全に豚のそれ。だが明るい肌色のその手足は、奇妙に太く短い。尻尾の付け根と首元にはツギハギした針の痕が見える。その豚はタイロの姿を見るなり、その短い後ろ足で立ち上がると部屋の隅へと逃げて震え出す。ギャリッ!! ガチャリ!! 豚の首輪に繋がれた鉄の鎖がピンと伸び、その豚は滑稽に床へと転げ、そのまま悶え苦しむ。それを見てタイロは満足げに笑みを零すと、手に持ったバケツからトングを手に取り、中の赤黒い物体をその豚へとトングでつまんで投げつけた。そして、愉悦に満ちた表情で言った。
「ほら、ゴミ豚。お前の餌、取り巻きの学級委員だよ。」
† † † † †
母校の皆へ。
僕は対怪異学園2年、技術部所属、タイロ。もうそちらには殉死報告が出ているでしょう。残念ながら、僕は生きています。そう、敵地、ネクロランドで。そちらでは、あらゆる不幸を味わいました。毎日死んでしまえたら、そう考えていた。しかし僕は今、とても幸せです。よく皆に、僕の名前と退路をかけて馬鹿にされていた。しかしここに、僕の"退路"は確かにあったんです。皆にはありますか? もしも望むのなら、僕があの二人に頼みます。ルル・ホワイトハートと、フェリエッタ・バリストフィリアに。そちらから生きて連れ出してもらうように、見逃してもらうように。教職の連中は、戦えと囃し立てるでしょう。馬鹿な事はやめた方がいいですよ。あの二人には勝てっこない。どんな手を使っても。僕は"こちら"の世界に受け入れられた。皆、誰よりも暖かく迎えてくれた。だから僕も恩返しをしました。対怪異学園の内部事情、防御の構造、戦闘部員の配置。僕の知る情報は全てあの二人に教えました。そしてあの二人は約束してくれました。30名の化物と屍者を従え、そちらにご挨拶に伺うと。僕は誰にも助けられなかった。だからこう言いました。「一人残らず皆殺しにしてやってくれ」と。もしも生き残りたいのなら、僕と同じ心境の人がいたら。ネクロランドの人々に会った時、抵抗せずに武器を捨てて下さい。彼らは見逃して、ほかの奴らを皆殺しにするでしょう。僕はネクロランドから出ません。フェリエッタが言うには、僕の安全の為だそうです。それではみなさま、良い最期の晩餐を。
p.s.
あのメスブタ、セラ・イビスも生きています。写真を添えます。これが今の彼女です。
ほら、前よりも元気そうでしょう?
† † † † †
さらに2日後。ルシッドヴァイン城、東塔167号室。
「・・・どう? タイロ君。サイズはぴったりのはずだけど・・・」
「あ、はい!! 完璧です!! ありがとうございます!!」
「うふふ、いいのよ。私の趣味だから。デザインはどう? あなたは学者肌みたいだし、カッコイイ研究者って感じのイメージで作ったのよ。」
タイロはフェリエッタから提供されたこの部屋で、蜘蛛の仕立て屋、エンデューラに服を着付けてもらっていた。慣れた手つきで裾を上げ、銀と青の刺繍の入ったどこか白衣のようなコートを手直しする。エンデューラがその者に合った服を仕立てるのは、ネクロランドに新たな住人が来たときの恒例行事だ。これは彼女の完全な趣味である。ボロボロの制服しか持っていなかったタイロにとっては、初めて着る高級な服である。
「・・・よし、と!! うふふ、完璧!! 似合ってるわよ!! ほら、ちょっとコレ持ってみて!!」
エンデューラは8つの眼をキラキラと輝かせながら、タイロの部屋にあった分厚い本を手渡す。
「え? あ、はい、こうですか?」
「それでメガネに手を添えて!!」
「は? はい。」
「ひゃーーーっ!! 完璧!! インテリ王子様の爆誕よ!!」
「あ・・・は、はあ、どうも・・・」
カシャリ。キィーッ。エンデューラは年代モノのポラロイドカメラでその姿を写真に収める。カサカサと巨大な蜘蛛の胴体を揺らして横に並び、カメラを自分に向けてパシャリとツーショットを取る。
「さあさあ!! 行きましょうよ、みんな待ってるわ!! インテリ王子様の登場をね!!」
† † † † †
「WELCOME TAIRO」。歪なガラクタの組み合わせで作られた文字が掲げられる。ルシッドヴァイン城。そのダイニングホール。大勢の屍者と化物達が、各々様々な席に座っていた。その中央のひときわ豪華な椅子に座るのは、先程エンデューラに仕立ててもらった服を着たタイロ。その右脇の椅子に腰掛けたフェリエッタが祝辞の言葉を贈る。
「親愛なる命なき者達よ、人でなき者達よ。今日という日を称えよう。新たなる者の選択を称えよう。ようこそ我等が悪夢へと。生きた時間に失った幸福と希望を、我等が紡ぐ事をここに誓おう。ようこそタイロ。新たなる王子よ。」
盛大な拍手が巻き起こる。幼い屍者の娘が薔薇の花束をタイロへと渡す。
「っ!! あ、あり、ありがとう、ございます!!!」
華やかな歓迎の晩餐会が始まりを告げた。タイロは今日は炭酸飲料、グレープスパークルを注文する。先日、湯水の如くに赤ワインを飲み漁った二日酔いは相当なものだったらしい。タイロはチキンステーキを頬張りながら、ひっかかっていた事をフェリエッタに聞く。
「そういえば・・・ フェルさん。あの日の話なんだが・・・」
「何でも。」
「あの日、フェルさんは僕がルルさんの事を"何も解っちゃいない"と言った。それが何だったのか、ずっと気になってるんだ・・・」
「説明しようか、君の敗因を。」
「お願いします!!」
フェリエッタはナイフとフォークを置き、手振りを添えて語り出した。
「・・・君はナノマシンを使い、ルルの感情を除去してただ本能に命令を下せば、最強の生物兵器になると考えた。違うか?」
「はい、その通りです。」
「だろう。しかしその感情を除去されたルルは大した強さじゃなかった。そうだろう?」
「はい。」
「そこが君の敗因だ。ルルは本能的には、ただの獣だ。肉食獣。しかしそれをルルたらしめているのは、彼女の"好奇心"なんだよ。」
「好奇心・・・?」
「にゃふふっ、私のお話ですね?」
「うわっ!!」
突然、ルルがタイロの真横に座っていた。その瞬間はフェリエッタも見ていなかった。忍び寄り、視界を読みきり、さも最初からいたかのようにそこに忍び込んでいたのだ。
「私からお話しましょう。ご主人様の言うとおり、私は好奇心で動いています。そう、例えば・・・」
ルルはフェリエッタの置いたテーブルナイフを手に取る。
「ここにナイフがありますよね。これを使って出来る最も芸術的な殺し方って、何だと思いますか?」
「・・・芸術的な、殺し方?」
「そうです。ただ刺すのでは面白くありません。これをどう使い、どこを攻撃したら一番"面白いのか"。私は常にそれを考えているんですよ」
ルルは口に手を当てて、フェリエッタから聞いた話を回想する。
「あの日の夜、ご主人様は私が銃撃にひるんで時折止まるのを見て、勝利を確信しました。何故だと思います?」
タイロは考えるも、黙り込む。そこにルルが指を組んで答える。
「にゃふふ・・・ 敵弾に恐怖を感じて尻込みしそうになる本能を感じた時、いつもの私ならこう考えるんです。『その予想を裏切って突っ込んだら、さぞかし相手は恐怖を覚えるでしょうね』と。つまり、私の好奇心とは常に相手が最も恐れている事を想像して、それを実行していく事なのですよ。」
「そう。それが我がルルの最大の強さでもある。常に相手にとっての最大の恐怖を、好奇心で実行し続ける。その感情を抑えられたルルは、本来の半分の力も出せなかったという訳だ」
タイロはその説明に、心から納得した。そして、最後にもう一つ、ひっかかっていた事を問う。
「フェルさん、あの後の言葉、覚えてますか?」
「何と言ったか・・・」
「『・・・ルルは"相棒"じゃない。』と。」
それを聞いたルルは、少し動揺したように眼を逸らす。顔を背け、二人に表情を悟られまいとする。フェリエッタはグレープスパークルを飲み干すと、さも当たり前のように言った。
「ルルは、私の全てだ。"相棒"止まりなんかじゃないのさ。」
END
※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。
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