FORGOTTEN NIGHTMARE



Forgotten Nightmare 2019/12/23
"Night of the Krampuses"


NORMAL MODE





ドゥラダダダダダダッ!!! ダァンダァァン!!!
ダッダッダッダッダッ!!! ヒュルルル・・・ ドーン!!!

2019/12/24、午前0時。ネクロランド。ルシッドヴァイン城はさながら第二次世界大戦の激戦区の状況だった。年に一度のサンタ狩り、サンティング。夢から現世へと通過するサンタクロース達を目の仇とする、ネクロランドの住人達の乱痴気騒ぎだ。皆各々持ち寄った銃、重火器を夜空に向けて景気良くバラ撒いている。それらを尻目に、フェリエッタは城の西塔、213号室を探していた。ルルに手渡された一枚のメモにその部屋番号が書かれていたのだ。空き部屋をわざわざ指定してくるとは、何かある。数百の部屋がある城の中からその部屋を探すのは一苦労だ。廊下を歩く度に銃器を持った屍娘達が走ってくる。皆城の上階、狙撃ポジションを探して大忙しだ。211、214、213。この部屋だ。周囲を見回し、誰もいないことを確認してからフェリエッタは銃を抜く。モーゼルMkII。何処とも知れぬ世界線で製造された奇妙かつ巨大な拳銃だ。口径7mm、装弾数5発。手動ボルト式。フェルはこの役立たずな銃を入手して浮かれており、それが今回のサンタ狩りの中止案にも繋がった程だ。ドアを慎重に開け、中に銃を向けクリアリングする。

ジャカッ!!

・・・暗がりで銃を突きつけあった。銀のコルト.32。"Tempesta .32"の刻印。その銃の持ち主といえば。

「にゃっふふふ、随分待ちましたよご主人様」

勿論ルルだった。互いに銃を下ろし、部屋のドアを閉め鍵をかける。この戯れは全く意味がないのだが、カッコイイと言う理由で互いにやめる気は毛頭ない。ルルが部屋の電気を付ける。そこに照らされたのは、随分とムーディに飾りつけされた部屋だった。クリスマスツリーがある。電飾も。テーブルにはワインとオードブル。まるでクリスマスパーティそのものだ。仮にもサンタ狩りをしている身。"下々の者"にバレたらただではすまないだろう。そんな事を気にも留めぬルルは一言。

「あいつらが乱痴気騒ぎをしている間、私と二人で大人のクリスマスをしたいと思いましてね」

「・・・成る程」

「にゃっふふふ、こんなものもありますよ? ご主人様、お好きではないですか? にふふふ・・・」

ルルは茶色の衣装を広げてみせる。それは下半身がかぼちゃパンツになったトナカイの仮装だった。


† † † † †

「みんなトナカイを赤鼻にするけど、あれは奴らのうちたった一人だったんだろう?」

「ご主人様が黒い鼻をしたケダモノが好きなだけじゃないですかっひひひ!!」

30分後。ルルとフェルは二人テーブルについてトナカイ仮装でワインをひっかけながら馬鹿話に興じる。鼻の頭を黒く塗る獣のメイク。人間界から仕入れたスマートフォン。動画や写真を撮り合ってグダグダと二人のクリスマスを楽しんでいた。その時、廊下を走る屍娘の声が聞こえてきた。

「・・・フェルッ!! ルル!! 何処にいるの!! フェルーッ!!」

折角の二人きりの充実した時間だ。どちらも出て行く気はなかった。

「何でしょうね」

「恐らく弾が切れたとか、そんな話だろう」

「・・・所でご主人様、聖夜といえばやる事は一つじゃあございませんか?」

ルルがスッと椅子の上に立ち上がり、かぼちゃパンツの丸い尻をフェルに向けて振る。



「・・・そういう事なら、ここにケダモノが二匹。」

二人は手を取って、そのままベッドに・・・

瞬間。

バシャアアアアァァァン!!!

窓をぶち破り何かが飛び込んできた。飛び散るガラス片。強い獣の臭い。真っ黒な毛むくじゃらの巨体。ゴロゴロと転がるそれを左右に飛び退いて避けるトナカイ2匹。複数のロープと赤緑の巨大な布。パラシュートだ。パラシュートで何かがこの窓に飛び込んできた。それは。

「・・・クランプス!?」

ヤギ顔の悪魔、クランプスだった。クリスマスの夜に悪い子の前に現れ、鞭で打ち、籠に詰めて連れ去るとされる懲罰の悪魔。そのクランプスはよろよろと立ち上がると、二人のトナカイを見て眼を丸くした。腰にぶら下げたトランシーバーを慌てて取り出し、何かを連絡しようとする。

「こちら74!! 見つけた!! 最重要ターゲット二人・・・」

ダァン!!! バチュン!!!

飛び退き様に自分の銃を拾っていたフェルがトランシーバーを神業的な射撃で撃ち落とした。カシャン、キィン。奇妙な銃を手動コッキングして次弾を装填する。ルルも自分の拳銃を拾い上げ巨体に突きつける。クランプスに銃を向けるトナカイ2匹。

「おやおやおや? 身勝手な懲罰者様達が私達のパーティに何のご用ですか?」

「邪魔しないでくれるかい? ミスター・ゴーティ。」

それを聞いて"74"と自らを報告したクランプスが腰から鞭を抜く。

「お前達、好き勝手にしやがって!! 喰らえ!!」

鞭を振り下ろすクランプス。瞬間。

ダァンダァンダンダンダンダアァン!!!

・・・当然の出来事だった。フェルとルルは至近距離からクランプスに全弾をぶち込んだ。力なく倒れるクランプス。しかしどうやら、致命傷にはなっていない。というか、この怪物もまたネクロランドの住人同様、不死身のようだった。撃たれた箇所を両手で押さえ、悶絶している。痛みは感じるようだ。多分、このまま夜明けまでは何もできないだろう。そんな彼の鞭を奪い、馬乗りでめちゃくちゃに叩いているルル。

「私達のっ!! 甘いっ!! 時間をっ!! 邪魔するっ!! 悪い子はっ!! どいつですかっ!!」

「ドイツ出身だけにな・・・」

「クソ寒いジョークを言っている場合ですかご主人様!!」

ふと寒風の吹き込む窓の外を見る。いつもと様子が違う。誰一人上に向けて発砲していない。そこらじゅうに赤緑のパラシュートが見える。

ハメられた。フェルは確信した。

「・・・どうやら今年のサンタ狩りは中止にした方が良かったようだ。罠だ。奴等、サンタに化けたクランプスの空挺部隊を寄越したらしい」

「後悔はっ!! 先にっ!! 立ちませんよっ!! このっ!! このっ!!」

重傷者に鞭を打ち続けるルル。

「多少マズイ状況らしい。ルル、我々も乱痴気騒ぎに行くぞ。お楽しみはその後だ」

「ご主人様!! 待って!!」

駆け出そうとするフェルをルルが静止する。

「まずはこのトナカイを脱いでいきませんと我々が撃たれます!!!」

† † † † †


「フェルっ!! ルルっ!! どこに行ってたんだわ!? 街はクランプスの群れで大騒ぎなんだわ!!」

ネクロランド製の簡素な狙撃銃、ドルチェ・ロングショットを手にした屍娘、デュプリケティアが息を切らし、継ぎ目から膿汁を垂らし、着替えて部屋から出たフェルとルルを呼び止めた。今まで甘いクリスマスをやっていた等と言えるはずもない。

「ルルと今夜の作戦会議をしていた所だ。どうやら状況が変わったらしい」

「我々も参戦します。街の状況は?」

「いつも通りサンタ共のソリを狙ってたんだわ。そしたら次々とパラシュートであのクランプスが降りてきたんだわ!! みんな大パニックよ!! 街はめちゃくちゃな銃撃戦になってるのだわ!!」

「奴等は銃を持ってるか?」

「どうやら持ってないらしいのだわ。みんな鞭だけ。」

「こっちの銃は効きますか?」

「あんまり効き目がないみたいなのだわ。でもみんなで撃てば倒れはするみたい」

「それなら話は早い。ルル、やるぞ」

「勿論です」

三匹は城の一階ホールまで走る。そこでは城内に押しかけようとするクランプス達を銃火で必死に喰い止めている5人の屍娘達の姿があった。全員、武器は単発のドルチェ・ピストル。一発撃つたびに銃口から新しいキャンディ・バレットを詰めては撃ちを繰り返している。それをクランプス達は外したドアを盾にして侵攻を試みる。キャンディ・バレットは口径こそ大きいが、一種のフランジブル弾だ。フランジブル弾とは命中時に砕け散る設計の弾丸で、ドアに当った弾は軽い爆発を起こしてキラキラと青紫色の粉塵を撒いて砕けてしまう。屍娘の一人がフェル達に気付く。

「フェルにルル!! 良かった!! 手を貸して!! 私達の銃じゃあいつらを倒せない!!」

「お安いご用。」

ダァン!! カシャッ!! ダァンダァンダァンダァン!!

フェルのモーゼルMkIIが火を噴く。腰だめ片手撃ち。西部劇のガンマンのように手動式のボルトスライドに左手を添え高速で連射した5発は見事にドアを撃ち抜き、クランプス3人に命中した。掲げていたドアを取り落とし、銃創を抑える。

「今だ!! ファイア!!」

ドバァン!! ドバアァン!!

戦列歩兵のマスケット射撃のように、屍娘達の単発銃が一斉に火を噴いた。次々と吹き飛ばされて玄関の外に吹き飛ばされるクランプス達。

・・・長い夜になりそうだ。

† † † † †


2時間後。静けさを取り戻したネクロランド。パラシュート降下してきた総勢80名のクランプス達は全員が捕縛された。皆体中に銃創を穿たれ、顔をボコボコに腫らしている。そこら中には墜落し、火を噴く弾痕だらけのサンタのソリが転がっている。捕虜となったクランプス達は全員森の廃劇場のステージに集められ、奪った鞭を持ちサディストの眼を輝かせる屍娘達に囲まれている。そこにルルとフェルが到着した。人ごみを掻き分けてクランプス達の前に現れるルル。

「・・・っあいつは!!!」

「隊長!! 隊長!!」

「みんな!! 気をしっかり持て!! 絶対に折れるなよ!!!」

恐ろしい形相を恐怖で歪ませるクランプス達。どうやらルルの悪名は向こうまでも届いていたらしい。

「にゃっふふふ・・・ 紳士の皆様方? とりあえず聞きたい事よりも拷問させて頂きましょうかにゃあ? 吐かせる事は2、3人潰してから考えるとしましょうか。まずは・・・ どーれーにーしーよーうーかーにゃー♪」

「「「「「ヒイイィィィ!!!」」」」」

何も持たないルルが指を差して選ぶだけで2mはあろうかと言うバケモノ達が震え、縮み上がる。舌を噛み切ろうとする者までいるが、不死身故それは叶わぬ願いだった。

「待て、ルル。私から話そう」

そこにフェリエッタが出て行く。舌打ちして手をぴらぴらさせ、「お好きにどうぞ」のジェスチャーをするルル。隊長と呼ばれたクランプスに近寄り、フェルは一礼して話を始める。

「今回は申し訳なかった。元々中止にするつもりだったんだが、我が住人達がそれを認めなかったのでね。私の判断でこれを実行した。許せとは言わない。」

思わぬ紳士的な対応に驚きを隠せないクランプス達。隊長のクランプスが口を開く。

「・・・フェリエッタ、だな。話はサンタ共から聞いておる。先ずは取引をできないか。わしはこの者どもを率いるクランプスだ。我々に名前はない。ナンバー1のワンと名乗らせてもらおう。」

「どうぞ。ワン。」

「お前のやった事は許しがたき事だ。しかしこれを中止にすると考えていたのなら、まとめる者として話は別だ。わしも者々に流されて今ここで無様を晒しているのだからな・・・部下が知るのは、ここに来て片っ端から懲罰しろ、それだけだ。どれだけ締め上げてもそれ以上は吐けん。取引はこうだ。部下に手を出すな。縄をほどいてやってくれ。皆命令はよく聞く者達だ。わしは縄を解く前に者どもに攻撃禁止、待機と整列を命じる。わしは縛ったままで良い。そうしてくれたら全てを吐かせてもらおう。」

戦士の誇りを感じる取引だった。少し悩むフェリエッタにルルが横槍を入れる。

「ご主人様ぁ〜? まさかこいつの話、真に受けてませんよにゃあ? 私なら部下の3割が縄をほどかれた瞬間に攻撃命令を出しますよ〜?」

「・・・間を取るとするか」

フェリエッタは結論を出した。

「ワン、よく解った。望み通り我が住人達は部下には手を出さない。縄も解いてやろう。だが一つだけ条件だ。整列した部下達に銃を向けさせてもらう。貴方が攻撃命令をもし出せばすかさず発砲する。Deal? (飲むか?)」

「・・・いいだろう。者共!! 全隊攻撃禁止!! 縄を解かれ次第整列して待機せよ!!」

屍娘達はナイフや斧、ナタを取り出してクランプス達の縄を切っていく。縄を解かれたクランプス達は次々に定位置へと整列していく。フェルがそれを見て、口を開く。

「・・・では聞かせて頂こうか」

† † † † †

クランプスの隊長、ワンの吐いた情報はおおよそフェルの読み通りだった。サンタに化けたクランプス隊をネクロランドに囮として先行させ、あえて撃墜された後にネクロランドを白兵戦で攻撃し、制圧する。その後クリスマス帰りのサンタ達に引渡して任務は終了。それが彼らの役割だった。

「・・・成る程な。よく解った。ワン、協力に感謝する。我々にこれ以上の戦闘をする理由はない。このまま全員、森を出て帰るといい。君達ならば夢の歩き方を知っているはずだ。」

「こちらも感謝させてくれ。そして良ければ、一つだけ聞かせて欲しい。」

「どうぞ」

「・・・何故、サンタを襲う? いい子にしていればどこに居たってサンタは等しく来るのだぞ? 我々は鉄の掟で"その年の"悪い子以外は懲罰できぬ身。一年品良く生活するだけでいいのだぞ?」

「・・・ここにいる住人達は皆、永遠の罪を犯している。神の輪廻から外れ、永遠に不死で生き続けるという"罪"だ。それは神聖なる者達から見れば、決して許される事はない罪。この子達はいるだけで"悪い子"なんだよ。だからやられる前にやってるのさ。」

クランプス達は驚愕し、動揺する。永遠に許されぬ、自分の意思とは関係なく神の理由で"悪い子"である。それならばどれだけ懲罰しても、改心しようとも許されず鞭打ち続ける事になる。己の役割に誇りを持っているクランプス達の信念が揺るぎ始める。そこでルルが何かを思いつき、割って入る。

「・・・にゃっふふふ、どうやらお友達になれそうですにゃあ。もしかしてとは思いますが、クランプスさん達、"クリスマスを楽しんだことがない"んじゃあないですかにゃあ?」

「アッ!!」「うっ!!」「!!!!!」

図星も図星だった。クランプス達にとって、クリスマスは悪い子との戦争だ。泣き叫ぶ子供を捕まえ鞭打つ。抵抗する子供の反撃に遭う。懲罰する事で善き未来が来るとだけ信じて。毎年の心労は計り知れないものだった。ルルはにやりと何かを確信し、続ける。

「昨日クリスマスのディナーショーがあったんですよ。その急遽追加公演にヤギな皆様をお客様としてお招き致しますにゃ。どうせ任務は失敗してるんです。気晴らしが必要でしょう? このままでは部下も次々辞めて行きますよ? どうです? しかもただのショーじゃありませんにゃ。我々が何故"悪い子"なのか、わかりやすーく知る事が出来るでしょう。にゃっふふふ。部下の訓練として考えてはどうですか? ワンさん。」

心の装甲板を剥がし、そこを突く。相手の退路を全て断つ。ルルは話術でも狡猾かつ情け容赦なかった。

† † † † †


ヘールズ・ホールに、80の巨体がひしめいている。クランプス隊長のワンは情にとても脆かった。昨日と同じショー。それを見て、クランプス達は同情と悔しさの涙を流していた。


「I'm Bratschariea! March Hare! Why i'm here? I'm Hunted!」
(私はブラシィエラ! 三月ウサギよ! 何故ここにって? 狩られたの!)
「They shot me! and i Lose life and Nose! And then? I HUNT THEM! One-By-One-BANG!」
(奴ら私を撃った! そして命と鼻を無くした! それからって? 奴らを狩ったのよ! 一人ずつ、バァン!)


「齢10もないこのような娘を撃ち殺したとは・・・人間とは・・・クッ!!」

「正当なる復讐ではないか・・・ どこに罰される必要がある・・・!!」

「我々はこんな娘を鞭打っていたのか!! クソ!!」


「i'm whispiria. i born-in-darkness, my eye and mouses are reverse.」
(私はウィスピリア。闇の中で生まれたの。私の眼と口は逆に付いてるの)
「i'm born evil,because i'm devil,but i'm desen't matter,i only whisper with dual mouths.」
(私は悪しきモノ。何故なら悪魔だから。でも気にしないわ。私はこの二つの口で囁くだけ。)


「おお・・・見よ・・・なんと美しい御方だ・・・」

「我々だって醜い悪魔じゃないか・・・何故眷属を鞭打たねばいかん・・・」

「醜い悪魔なのが罪ならば、鞭打たれるべきは我々の方ではないか!!!」

効果はてきめんだった。オール・サンティング・イブのショーで、何故サンタに"悪い子"とされたのかを次々と告白するシーン。そこでクランプス達は完全に戦意を喪失し、ネクロランドの住人達に同情を感じ始めた。そして次々と運び込まれる、料理の数々。気付けばクランプス達はクリスマスパーティーの人間のように、ワインを飲み、チキンを食み、ケーキを食べていた。

その後、クランプス達は去り際にネクロランドと休戦協定を結んだのだった。

END











※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。








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