FORGOTTEN NIGHTMARE



Forgotten Nightmare 2025/12/16
"Dive Under"



NORMAL MODE



ネクロランド外、何処かの世界線の現世。
湿気の多いレンガ造りの水路、錆びた鉄パイプが壁面に這っている。
防水ライトとM1911A1をクロスさせた赤い目が古びた地下ポンプ室をクリアリングする。
それに金の目をした巨躯、赤い片目を輝かせる小さな影が続く。

フェリエッタ"The Nightmare"、チアロ"The Wolf"、アリス"The Hare"の三名は予定の位置に付いた。

「・・・よし、敵の歩哨はいないようだ。チアロ、そこに荷物を広げてくれ」

「わかったわ。・・・ずいぶん狭苦しいわねここは」

身長2mの狼娘、チアロは背負っていた巨大な鞄を下ろし、手頃な木箱の上に青写真を広げた。
この建造物の詳細な地図だ。フェルがライトをアリスに手渡し、すかさずタバコに火をつける。
アリスが照らす地図を銃身でなぞり始める。

「作戦を確認するぞ。ここが今いる部屋だ。地下5F、水路の流量調整室とある。
 ルルの話によれば・・・
 このルートを辿って2つの水門を通過できれば、連中のウラをかけるはずだ」

「にいさま、上から行っちゃダメなの?」

「連中はゲート、転移装置を保有している。襲撃で警報が鳴った瞬間、生き残りは他の世界線に移動するだろう」

「隠れて進めって奴ね。 ・・・フェル、何でアタシとアリスを指名したの?」

「車を被った時を覚えてるか? 上手くいった。それに私では文字通り力不足だ。
 ルルのチームは30分後に同時攻撃を予定している。上の奴らの本部らしい」

「こっちは裏方って事ね。で、何処を進めばいいの?」

「鞄の中に答えがある」

チアロが鞄を探ると、出てきたのは大小のドライスーツが2着、
簡素な水中用マスクとレギュレーターが2セット、
そして水着が3着ほど入っていた。ゴム式の漁用水中銃もある。
チアロは目つきの悪い顔でフェルを睨む。
フェルは背後の床に空いた四角いハッチを肩越しに親指で示した。

「・・・潜るの!? 狼女にやらせる作戦じゃないでしょ!?」

「ギヒヒィ!! わたし泳ぐの好きよ!! にいさま、着替えるわね!!」

アリスは可愛らしい青色のスカート付水着を抱えて、ライトを置いて暗闇で着替え始める。

「君の分のスーツも調達した。不得手ならここで合図を待ってくれ。」

「・・・ったく、仕方ないわね。水路の長さは?」

「最初の水門まで縦5メートルに横10メートル、そこを開けると川への合流に着く。そこから更に15メートル、
 2つ先左側の水門を開けば、8メートルで奴らの真下に入れる」

「5分もかからないわね。窮屈で窒息したくないし、これでいいわ」

チアロは男物の海水パンツとラッシュガードだけを掴むとパイプの影で着替え始める。
フェルはタバコを吸い終わると、懐にM1911A1を収めドライスーツの準備を始めた。
紺に蛍光反射のライン、金属製のバルブが付いたこのスーツは現世からの鹵獲品。
レギュレーターと小型空気タンクも同じく現世の技術によるものだ。
それなりに役には立つだろう。

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苔の生えた水路の中を水中ライトで照らし、小さい空気タンクを背負ったフェルが先頭に進む。
その後ろに素潜りのチアロが続き、更に水底を当然のように歩いて進む水着姿のアリスが続く。

4メートルの真四角の石積みの水路。水中は濁りもなく、予想したほど温度も低くはない。
ただルートは複雑で、少しでも間違えば溺死は明らかだ。
フェルの背負っている呼吸装置は長時間潜水には向かない簡易的なものだ。10分は持たない。

流れる水音が水路に反響し、本能的恐怖を掻き立てる。
最初の水門が見えた。鉄の重厚な錆びた扉のハンドルにフェルが手をかける。
・・・予想通り、ビクともしない。フェルが肩をすくめて後ろを振り返ると、
呆れたようにチアロがそれを片腕で回す。錆が水中に舞い、いとも容易く水門が開く。
それが開いた瞬間、猛烈な水流が三匹を襲った。
泳いでいたフェルとチアロは吸いだされるように水門の向こうへと流される。
ゴボゴボと水の音が激しくなり、泡が水面のない水路を飛び交っている。

そこは横幅10メートル、縦20メートルはあろうかという川の合流路だ。
ある程度流された所でフェルが壁の錆びたパイプを掴む。
左右を見回す。流された水門から見て、図面で示された水門を見つけた。
水流に逆らって泳ぐチアロに手を伸ばす。チアロは爪の生えた指でフェルの手を掴む。
アリスは平然と水流を物ともせずに歩いてくる。

チアロが目的の水門を指差しアリスに示す。アリスはその水門のバルブを引き千切る。
バルブは回さなければ開かない。閉ざされた水門を前に一瞬アリスは考える素振りを見せ、
そして水門を両手でこじ開けた。水の流れが変わり、今度はそちらへと吸い込まれる感覚がある。
流れに任せ、チアロはフェルの手を引いて泳ぐ。潜り始めてから3分は経過しただろうか。

遥か上方に水面が見える。チアロはバタ足を早め、水面へと急ぐ。
アリスは平泳ぎと犬かきの中間のような力任せの泳ぎ方でその後を追う。
水中での一分半は無限にも思える長さだ。やっとの事で水面が近づく。
チアロがフェルを水面へ放り投げるようにして手を放す。
フェルは背負っていた水中銃を構え。

ザバアッ!!

・・・周囲を見回す。ストラップでぶら下げていたライトで辺りを照らす。
敵影はない。もっとも、この銃では一撃放ってしまえばおしまいなのだが。
手の届く所に金網状の足場が見える。目的の制御室の中へと無事侵入できたようだ。
フェルが金網に手をかけ、水中用マスクとレギュレーターを外した所で、
チアロとアリスが続けざまに水面に顔を出した。

「・・・ぶはっ!! ゲホッ!!」

「にいさまー!! ここでいいの?」

「ああ。敵もいないようだ。二人のお陰で無事辿り着けた」

フェルが金網をよじ登り、両手でチアロを引き上げ、更にチアロはアリスを片手で引き上げる。

「全く、相変わらずとんでもない作戦ね・・・」

「ここのゲートの電力は水力発電で補われている。
 目の前の装置を破壊すれば、奴らは他の世界に逃亡できなくなる」

「でも壊したら人間共が一斉に・・・」

そうチアロが言いかけた瞬間、凄まじい音が制御室内に鳴り響いた。

「にいさまー!! 壊しておいたわ!!」

見ればアリスが500キログラムはあろうかという制御装置を根元から持ち上げ引き千切り、
それを壁に叩きつけて粉々に破壊していた。電力喪失の警報が鳴り響き、
かろうじて照明を維持できる程の弱々しい非常電源に切り替わる。

「流石アリス、ナイスだ」

「どこがよ!? 完全にバレたわ今ので!!」

「逃げられない事が潜入の目的だ。奴らが来てくれるなら好都合」

フェルは持っていた水中銃をチアロに投げ渡す。
チアロはそれを受け取ると巨大な狼の手でどうにか構え、
制御室の入口を警戒する。

アリスは壁の鉄パイプを引き千切り、それをバットのように構えて敵を待つ。
フェルがドライスーツを脱ぎかけた時、逆方向、背後から人間の足音がした。

「こちらチームB!! 侵入者だ!! 制御室が破壊されている!!」

無線で連絡を取る3名の敵、人間のハンターは革のジャケットにサブマシンガン、ヘッドランプという装備だ。
バララララッ!! 腰だめの一斉射撃が始まる。

「・・・お楽しみだ!!」

そうフェルが叫ぶと、半脱ぎのスーツの下からM1911A1を引き抜いて振り向き、片手で撃ち始めた。


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・・・銃撃戦は呆気ないものだった。
防弾装備もない、素人の雇われ兵のハンターは瞬く間に殲滅された。

突入してきた3名の敵は苦も無く弾倉にある7発で一度に沈んだ。
同時に上の制御室に入ってきたハンター2名も、
アリスの鉄パイプの一振りでまとめて胴体ごと斬り飛ばされ4つになった。

フェルはM1911A1の弾倉を抜き落とし、予備を込める。
アリスは無残な残骸から拾った2挺のサブマシンガン、Vz61を握り締めている。
入口で出方を見定めていたチアロは獲物を逃した。

「・・・やったわね。で、これからどうする気?」

「敵の脅威は低い、このまま地上まで行って殲滅するぞ」

「ギヒヒィ!! わたしの出番ね!!」

「全く、策も何もあったもんじゃないわね・・・」

上の階、地上からは数十名の慌ただしい怒号と足音が響く。
フェルが鉄扉を押し開け、そこに水着姿のままのアリスとチアロが続く。
フェルのトレードマークの飾りスカートはない。
流石にスーツに入らなかった。黒のドロワーズにいつもの上着だ。
黴臭い石積みの地下通路を走り抜け、階段を駆け上がり、
右に通路を曲がった瞬間に2人の敵と鉢合わせた。
反射的にフェルは4発撃ち、その弾丸は両方の胴体と頭部に命中した。

弾倉を半分抜き、それを新しい弾倉を持った手で掴み、
入れ替えるようにフル装填の弾倉に交換する。
弾を事前に切らさない為のタクティカルリロードだ。

その横をアリスとチアロが援護するように駆け抜けていく。
左右の通路から同時に敵が一名ずつ現れた。
アリスは両手を大きく広げるようにして両方の銃のトリガーを引く。
バララララッ!! 銃弾は壁を跳ね削り取り、左の敵の足を撃ち抜いた。
絶叫が響き渡り、撃たれた男が銃を落とし倒れ込む。
その男の頭をアリスは裸足で容赦なくトマトのように踏みつぶした。
同時に弾の切れた両手の銃を投げ落とす。

「ギィヤハァ!! クランベリー!!」

右側にカバーした男がアリスに近づき、至近距離でAK74を乱射する。

「化物!! 化物めが!!」

十発以上がアリスの背中に直撃するも、血すらも出ていない。
まるでトイガンでも当たったかのように、多少身を揺らすのみ。

そこにチアロが駆け付け、膝を着き床を滑る。
アリスを撃ち続ける敵と距離が5メートルまで詰まった瞬間、
チアロは持っていた水中銃を発射した。

ザシュウッ!!

銛で串刺しにされた敵は、銃弾を明後日の方向にバラ撒きながら
レンガの壁に吹き飛ばされ、そのまま磔となり事切れた。

水着の背中側のに幾つも焦げた穴を作ったアリスが振り返り、親指を立ててウインクする。
チアロは水中銃を捨てると呆れた様子で額を狼の手で押さえつつ、ぎこちなく親指を立て答えた。


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それから10分程、進んでは現れる敵を葬りながら3匹は進む。
そして遂に厳重に警備されていた部屋の鉄扉の前まで辿り着いた。
チアロがドアに大きな狼の耳を当てる。

「・・・8人はいるわ。銃がカタカタ言ってる。
 開けたら一斉に撃つつもりらしいわ。流石に無策じゃムリそうね。
 特に撃たれたら血が出るあなたには、ヤバい状況よ」

「OK、ブリーチングからの突入と行こう。このドアをより遠くまで蹴飛ばせるのはどっちだ?」

「できるわよ!! このくらい!!」

アリスは両手を大きく広げて距離を示すが、あまり参考にはならない。

「・・・アタシなら10メートル位かしら、50キロも無さそうよ」

「よし、合図したらチアロはドアを蹴飛ばして右に飛び込んでくれ。
 アリスはチアロと逆側・・・左に走って手近なクランベリーを潰してくれ」

「わかったわ!! にいさまは?」

フェルはM1911A1の残弾が7+1発あるのを確認すると、銃を両手で構え片膝を着いた。

「・・・ここで全部撃つ。準備はいいか?」

チアロがドアの正面に立ち、アリスがその後ろで四つん這いで構える。
2匹が後ろを向き、フェルに目配せをする。フェルが頷いた。瞬間。

バキィッ!!

チアロが渾身の力を込めて鉄扉を蹴破った。
"く"の字にひしゃげた扉は弾丸の如くの勢いで飛翔し、
指令用テーブルを盾にして銃を構えていた2人の男をそのまま叩き潰した。

埃が舞い、チアロが中に飛び込む。同時にアリスも兎のように跳ねて中へ飛び込む。
チアロがドア脇にいる敵の銃口を掴み上げ、銃弾が天井を撃ちぬいていく。
狼の鋭い爪を敵の胴体に叩き込み、心臓と背骨を掴み胴体をぶち抜く。
アリスは逆側の敵に飛び掛かり、そのまま抱き着いて頭をかじり潰す。

そしてフェルの視界に映るのは、その状況に驚き、
どこに銃を向ければいいかも解らず腰が引けた4人の男の頭だ。

ダァンダァンダンダンダァァン!!! 5発の銃声が轟く。

・・・時間にして2秒も経たなかった。硝煙の煙る銃口の先には、
8人の敵が無残に倒れていた。

「チアロねえさま!! ハイタッチ!!」

アリスが口から敵の脳漿を滴らせながら無邪気に血みどろの手を高く上げる。
チアロは殺した敵の胴体から狼の手を引き抜き、それを自分の水着に数度拭った後
呆れた表情をしながらアリスと両手を叩き合わせた。

「死体を確認したい、ドアをどけてくれないか?」

フェルが再びタクティカルリロードしながら部屋に入ってくる。
チアロがドアに手をかけ、それをどかして下敷きになった2人の男を確認する。
そのうち一人、血に濡れて光る黒革ジャケットの男。
顔は丁度ドアが直撃し判別できない。
しかし砕けた顔面に突き刺さる、特徴的なサングラスの一部を見つけた。

「・・・こいつで間違いないだろう。今回のターゲット、
 このハンターグループのリーダーだ」

「どうやら任務完了ってわけね・・・」

一息吐こうとした瞬間、潰されていたもう一人の方が突然起き上がった。
握り締めた拳銃、マカロフを振り上げる。
チアロが敵の銃に手を伸ばすも僅かに足りない。
敵はそれをフェルの顔面へと至近距離で突きつけ―

ダァン!!

突然の銃声に、殺した敵を食っていたアリスが振り返り、慌てて走り寄る。

「にいさま!! 大丈夫!?」

「・・・こういう時の為に弾は切らさないんだ」

フェルはガンマンの早撃ち、腰撃ちで銃を突きつけた相手の鼻柱に一発撃ちこんでいた。


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・・・外の明かりが見える。多少晴れ間の見える曇り空。
侵入した地下道からアリスが道具を回収している間に、
チアロは脱出路の探索、フェルは重要書類の回収を行った。

美しい風景だ。ヨーロッパのどこか、山岳地帯だろうか。
あの施設は山肌を流れる川の水源を利用した水力発電所だったようだ。
忘れ去られた世界線の一つだろう。そこをハンターがアジトにしていたようだ。

恐らく回収した資料には敵のネクロランド侵攻プランが記されている。
ルルが率いるチームの襲撃も成功した頃合いだろう。
先に林が見える。あの中を歩いていけば、ネクロランドに辿り着けるはずだ。

ひと仕事終えた3匹は木々の間へ消えていく。





END













※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。








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