FORGOTTEN NIGHTMARE



Forgotten Nightmare 2020/1/8
"Lightational Singularity"


NORMAL MODE





バサッ・・・バサッ・・・
有翼の巨大な獣が、宵闇を切り裂いて刃のように地面スレスレを飛翔する。木々と山々。点々と等間隔に並ぶ架線。広大な田圃。日本の沿線の風景。疾走する新幹線の右側を銃弾のように追い抜いて、その獣は線路沿いを滑空し続ける。

「・・・乗客に見られちまったかな?」

有翼の獣が口を開く。コウモリのような巨大な赤と黒の翼。山羊のような下半身。その上半身は赤眼のショートヘアの黒髪少女。両手は鋭い4本爪。彼女の名はデスモダヴィ。所謂"ガーゴイル"だ。身長は優に2メートル半。翼を広げた幅は4メートルにも近い。黒革のビスチェと紫のボロボロのスカートを風に靡かせて、追い抜いた新幹線を横目に飛翔を続ける。

「問題ないさ。乗客たちに見られていても、どうせ皆酒に酔っているか疲れてる。真実を見るのは幼い子供だけだ」

その背中から声がした。デスモダウィの翼の中央に乗る華奢な影。強い巻き毛の黒い長髪に獣の耳と尻尾。フェリエッタだった。

「っあははは!! それもそうだな!!」

「今頃いるのはビール缶を見つめてる人間、寝ぼけて感情もなく車窓を眺め続ける人間、そして我々の姿にはしゃぐ子供を嘘だと咎める親といった所かな?」

「あっはははははは!! 想像させんなって!! 落ちるぞ!! っははははは!!!」

「所で、今日はありがとう。近頃ネタ切れで冒険を欲していた所なんだ」

「いいよ。アタシもたまには支配者様の役に立ちたいと思ってね。背中に子猫一匹くらいなんて事ないさ」

「敬われているのか逆なのか・・・」

「どっちもだよ、フェル」

「それが一番嬉しいね」

今日はこの頃、冒険に飢えていたフェリエッタを久方ぶりに訪れたデスモダウィが、現世への遊覧飛行に誘ったのだ。デスモダウィが城の窓越しに見たフェリエッタの浮かない顔で一目で気付いたのだそうだ。・・・ルルはどうしているだろうか。浮気だと嫉妬はされないはずだが、彼女も誘うべきだったとフェリエッタは少し後悔している。そんな事を考えながら、懐から他の現世で仕入れた強いメンソールのタバコと金のトレンチライターを取り出し、咥え、火をつけようとした。その時。

ヒュンッ!!

・・・突然、まるで自分の意思があるかのようにトレンチライターがフェリエッタの手から跳ねた。
そのまま遥か後方に落下して、田圃に小さな水飛沫を上げる。しまった、という思いよりも奇妙な感覚に襲われる。

「あー・・・デスモダウィ、申し訳ないが少し戻っておくれ。ライターを落とした」

「おいおいフェルッ!! アタシの背中でタバコ吸ってんのかよ!!」

「悪い悪い。"禁煙車"だったか。君も吸うからいいと思ってね」

「・・・まあいいけどよ。ったく、一体どこに落とした?」

「400、いや500m後方だな」

「それじゃお客さんしっかり掴まんな。急マニューバーやるぜ。」

マニューバー。戦闘機の戦闘機動の事だ。宣言通りデスモダウィは突然50メートルも急上昇し、スピードを殺しあえて一度失速する事で空中でぴたりと静止。翼を畳んでぐるりと180度転換した。ストールターンと呼ばれる神業的芸当だ。強烈なGがかかりフェリエッタにはかなり厳しいが、それを笑顔で楽しんでいる。まるで凶悪なジェットコースターのように一気に50メートルから5メートルまで垂直降下し、その勢いで僅か数秒で落とした地点に近づく。バサアッ!! バサッ!! デスモダウィは大きく翼をはためかせ、ヘリコプターのようにその場でホバリングを始めた。

「ここらへんか? うっかりさんよ」

「ああ。もう少し先だ。良かったら下ろしてくれ」

「いいよ。拾ってやる。この田圃なんかに降りたら泥でその鉄板入りの冷てえブーツがさらに冷たくなっからな。アタシのこの箸みてえなツメならラーメン啜るみてえに簡単だよ」

「助かるよ。・・・ほら、あの辺だ」

フェリエッタが示した辺りにデスモダウィがホバリングして近づいていく。キラリと金色が光った。

「ああ、アレか。どれどれ・・・っ!?」

その時、デスモダウィの声が上擦った。バサリッ、バサリッ、グラグラと飛行体勢が乱れる。明らかにデスモダウィは動揺している。フェリエッタはそれを瞬時に察知した。

「どうしたんだ? 死体でも沈んでいるのか?」

「ち・・・違うよ・・・ フェル、あんたのライターって真鋳のトレンチだよな? あの筒の横に着火装置が付いてる奴、それ"一個"だよな・・・!?」

「ああ。どうして?」

「見ろよ!! これ!! どうなってんだよ!!」

明らかにデスモダウィが怯えている。フェリエッタは彼女の背中から身を乗り出して指差されたそこを見やる。そこには・・・

「・・・ほう、興味深いな」

フェリエッタが落とした、金色に光る真鋳のライターを取り囲むように、そこには十個程度の似たような金色のライターがまるで意思を持って集まったかのように田圃の泥から顔を出していた。


 † † † † †


ガアアァァァァッ!!! ガタンッ、ガタンッ、ガタンッ・・・
先程追い抜いた、新幹線が田圃の畦道にしゃがみ込む二人の化物の隣をすり抜けていく。見つけたライター13個を地面に並べ、それを二人は凝視している。勝気で男勝りなデスモダウィは少女のように怯えていて、フェリエッタは顎に指を添え、片手で自分のライターを乾かしながら思考を巡らしている。

「なあフェル・・・説明してくれよこれ・・・アタシ、こういうのダメなんだよ・・・この・・・なんつーか都市伝説とか、怪奇現象みてえなのが・・・うう・・・」

「ははは、デスモダヴィはガーゴイルだろう? 神話の生物じゃないか。何でダメなんだい?」

「いやなぁ・・・これ、誰か幽霊がぶん盗ったとかよ、そういう誰かの意思じゃねぇじゃん!!まるでこのライター共、貝か何かみてえに勝手に意思を持って集合してやがったんだよ!! ダメなんだよそういうの!! 無機物が勝手にまるで生き物みてえになるってのがさ・・・」

「石像から化物になったお嬢さんなのに、この現象がそんなに恐いのかい?」

「だからこそ恐えのかもな・・・ほら、誰もいねえのに勝手に動き回る幽霊タンカーの話があったろ? アレとかダメなんだよ・・・あの話聞いてから、アタシ2週間は寝付けなかったんだ・・・」

「意外な弱点だったか・・・成る程。それじゃあ私なりの持論を。」

フェリエッタは泥まみれのライター達から二つを両手に取る。

「このライター達、金色である以外にもう一つ類似点がある。お気づきかな?」

「ど、どこだってんだよ・・・」

「これら全て、本体の横の部分に着火装置がせり出して付いている古いタイプのものだ。デスモダヴィ、君のライターを見せてみて」

デスモダヴィは動揺しながら、ビスチェに付けられたジッパーからライターを取り出す。悪魔のレリーフが組み込まれた、黒に真紅のジッポー型オイルライターだ。

「・・・現在流通している殆どのライターは、君のそれのように本体内にフリント、着火装置が収まる構造になっている。それか使い捨てのガスライターだ。この型のライターを持つ人間は今の時代非常に少数派だろう。誰かがライターをまとめてここに捨てたのだとは考えにくい」

「マジかよ・・・寒気してきたぜ・・・やっぱりそのライター、どれかが仲間を呼んだんじゃねえのか?」

「ふふ。いい着眼点だ。しかし次は共通していない点がある」

フェリエッタは地面に置いたライターを錆のひどい順番に並べ替える。

「・・・時代がバラバラなんだ。これは恐らくオイルライターが発明された当初のもの。こっちはそれから大体20から30年前のもの。これはそのレプリカ。この旧式しか存在しない、同じ時代にライターを大量に廃棄したのなら錆び方が同じになるはずだ。しかしこれらはそうではない」

「この形のライターだけ、何十年もかけてここに集まるって訳かよ!?」

「その通り」

「どうしてだ!? その一番古いライターがライター仲間を選んで呼び寄せてるんじゃねえのか!? 触っちまったよアタシ!! 祟りとか大丈夫なのか!?」

「その可能性がないとは言えないが・・・ よく見ててくれ」

そう言うと、フェリエッタは飾りスカートのベルトから銃弾を一つ取り出し、ライターが集まっていた場所に投げた。すると、その銃弾は空中で何かに弾かれたかのように軌道を変え、全く別の地点に落下したのだ。唖然とするデスモダウィ。

「・・・どう思う?」

「どうって・・・ 解った!! あそこになんかいるんだろ!! アタシには見えねえけど!! おい!! ライター泥棒!! かかってこいよ!! このデスモダヴィ様が相手してやる!!」

「うーん、近いが惜しいな。"あそこ"が原因なのは当たってる。しかしそれは人物ではない」

「あそこに何かあるのは当たりって・・・どういうことなんだよ!?」

「私も詳しくは解らないし、誰も解明していない現象なんだが・・・恐らく"シンギュラリティ"、特異点があのポイントなんだろう」

「特異・・・ なんだよそれ?」

「特異点。とある特定の一点が通常とは全く別の働きを示す現象。正確には重力的特異点の方が近いかな。君が言ったとおり、"あそこ"にその特異点がある。でもそれは意思を持っているものではない。竜巻や雷みたいな自然現象的なものだ」

「つまりは・・・あそこにそのライターを引き寄せる磁石みてえな力が働いてるってわけなのか?」

「その通り。ご名答。アメリカのオレゴン州にあるオレゴン・ボルテックスに類似したものだ。それ以上の事は解らない。しかし、もう一つ仮説を唱えるとすれば・・・」

フェリエッタは転がるライター達をまじまじと見つめながら。

「・・・全て私の趣味だ。このライター達は」

「おいおいおい、それ仮説でも何でもねえだろよ!!」

「・・・もしも、このライターを落とした者が、全て"私"だったとしたら?」

突飛なフェリエッタの発言にデスモダウィは混乱する。

「ちょ、ちょっと待てよ!! この現世の線路沿い、この間アタシがたまたま見つけた散歩道だぜ? 脚の弱いあんたがもうここに来て何十回もライター捨ててたって言うのかよ!? わけわかんねえ!!」

「いや、私がここに来るのは初めてだよ。君の言うとおり、こんな長い直線の道を歩き続けるような事を私はしない。でも、もしも"他の私達"がいたとしたら?」

「他の・・・私達!? それって、まさか・・・」

「そう。所謂ドッペルゲンガーだ。別の世界線の何処かに存在する、もう一人、もう二人目の私たち。それらがこの現世のこの場所に来て、同じようにライターを落とす。そういう運命じみた特異点なのかもしれないな、とね。ロマンチックじゃないか?」

「ろま・・・ロマンチック!? そんな呑気な事言ってる場合かよ!! 早く行こうぜ!! ドッペルゲンガーに会っちまったら死んじまうって聞いたんだ!!」

「それを実証してみたくはないか? 単純に他の世界の"私達"はどんな風にこちらの"私達"の眼に映るのか。私は私の銃の腕に絶対の自信がある。しかし相手もその私だ。互いに互角。どちらの"私達"が死んで、どちらの"私達"が生き残るのか。なんなら私はここで何日か待ってみたい気分だけどもね」

「じょ・・・冗談じゃねえよフェルッ!! あんたやっぱりマトモに見えてぶっ飛んでイカれてるよ!! ほら!! とっとと乗んな!! ネクロランドに帰ろうぜ!!」

「まあまあ、ちょっと待って。このライター達を持って帰ろう」

「ちょっ・・・マジ!? 正気かよ!? そのライターを追っかけて他のあんたが大挙してネクロランドに来たらどうすんだよ!!!」

それを聞いたフェリエッタは小刻みに震えだし・・・

「・・・っく!! はっははははははぁ!! 最高じゃないかそれは!! あははははははは!! 全員私なら私が一番もてなし方を知ってるしね!! 大丈夫だって!! くっはははははは!!!」

大笑いし始めた。血の気が引いた顔で呆れ返るデスモダヴィ。そしてフェリエッタは軽くライター達を懐から出した銃をクリーニングする為の布で拭き始める。そしてその飾りスカートへとライター達を収め、デスモダヴィの背中に飛び乗った。

「・・・いつでも取りにおいで、何処かにいる"私達"よ。」


END










※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。








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