FORGOTTEN NIGHTMARE



Forgotten Nightmare 2019/12/23
"All Santing Eve"


NORMAL MODE





2019/12/23。薄紫色の霧がかかり、ネクロランドは午後5時を回った。昼夜の逆転したこの世界では、そろそろ皆が街へ繰り出す時刻。ルシッドヴァイン城東塔。天蓋付きのベッドでフェリエッタは目覚める。眠い眼をこすり、まずは左手にある窓を開けて目覚めの一服。人間界から仕入れた強いメンソールのタバコ。一気に感覚が脳に戻ってくる。真っ黒な女性物のネグリジェの腰紐の背中側に枕の下に隠していたコルト.45口径拳銃を突っ込んでから、部屋のバスルームで顔を洗う。生まれついての巻き髪は寝癖かどうかも解らない。クシで適当に梳かしてよしとする。真っ黒な壁紙のフェルの自室。ドレッサーの前の椅子に雑に掛けられたいつもの服にもたもたと着替え、腰に巻いた革製のホルスターに先程のコルトを収める。猫のように伸びをする。喉の渇き。ネクロランド産の葡萄の炭酸ジュース、グレープスパークルが飲みたくなる。鍵もかけずに部屋を出て、一階東側、ダイニングを目指しふらふらと廊下を漂い歩く。その姿は屍者と大して変わらない。

「ハイラァ、フェル。やっとお目覚めか?」

声をかけたのは廊下を歩いてきた屍娘、クロウバール。欠損した右腕にバールを移植している、犬科の耳を持つ屍娘だ。左眼は白濁して瞳孔がない。恐ろしい風貌の彼女にフェルは笑みを返す。

「ハイラァ、クロウバール。目覚ましに嫌われたらしい。しかしいつも一階にいる君がこっちに来るのは珍しいね。何かあったのか?」
「そうだそうだ、フェル。あんた宛にヘールズ・ホールのブラシィエラから招待状。直接頼まれちゃってさ」

ヘールズ・ホールとは、ネクロランド地下墓地街中央付近にある巨大な手掘り洞窟のカフェだ。ブラシィエラは鼻の欠損したウサギの屍娘。幼い風貌だがたった一人でそのカフェを創め、今やネクロランドでトップレベルのカフェにまで育て上げた実力者だ。クロウバールは指の残る方の手で懐から封筒を取り出した。封はされていない。フェルはそれを受け取って中のノートをちぎり取って書かれた手紙に目を通す。

"親愛なるってちょっとオカタイわよね!! ハイラァー!! フェリエッタァー!! 私が誰かは書かなくてもわかると思うからいいじゃんね!! ブラちゃんがあなたを今晩のショーに招待してるわよー!! それでなくても最近ぜんっぜんこっちに来てないからたまには来てよね!! フフフフフ!! 私の話聞いてた? いや読んでた、かな? とりあえずこっち来て!! ココアはサービスするから!!あっあっ、時間は7時からだから!! 遅れちゃダメよ!! フェルはねぼすけだからこれを見るとき寝てるかも!! フェルウウゥゥー!!! 起きなさいーーーっ!!! あ、聞こえないか!! 私ってば!! とりあえずじゃあねー!!"

・・・一目見てフェルは手紙が代筆なのに気がついた。ウィスカプラッシュ。喋れないウサギの屍娘。口が裂けてアゴがぶら下がっているので口にバツ印にテープを貼っていて、筆談で会話するのだがとてつもなく"お喋り"で、物凄い勢いで乱れた文字を書いて次々に見せてくる。恐らくブラシィエラがウィスカプラッシュに書いてもらったのだろう。
・・・やれやれ、行かざるおえなくなった。フェルは多少面倒に感じる。地下墓地街に行く方法は廃坑を運行するトロッコしかない。招待状を懐にしまい込む。ルルと車で行ければ楽だ。

「ありがとうクロウバール。じゃあ私はルルと一緒に・・・」

「ルルならいないんだわ。あたしはルルに渡そうと思ったんだけど、キッチンのガロッタに聞いたら一人で出かけたきりだってさ。もしかしたらルルも招待状もらったんじゃないのか?」

「そうか・・・解った。私は徒歩で向かうとするか。所でクロウバール、大浴場はいつも通りだ」

「ふふん、お見通しだったのかフェル。あたしはここの風呂が大好きなんだわさ!! 今日も入らしてもらうんだわ!!」

「ごゆっくり。」

クロウバールは城内地下1階のローマ風大浴場が好きでよくここに訪れている。ここに来たのなら彼女の目的は一つだ。スキップするクロウバールと別れ、フェルはとりあえずグレープスパークルを飲みにガロッタのいるダイニングへと向かった。

† † † † †

ネクロランド中心街、午後5時半。12月23日の街は随分と活気に溢れている。

「今年のサンタ予報ー!!! 例年よりも勢力を増していると見られー!!!」

「サンタ狩りにぴったりの人間界の銃が入ってますよー!!!」

「ドルチェ・ピストル!!! 今なら5割引ー!!!」

・・・クリスマスに併せた呼び込みの声があちこちの店から響いてくる。毎年12月24日深夜、夢の世界から現実界へとサンタ達が飛び出す道程で、一部のサンタクロース達はこの悪夢上空を通過する。ネクロランドには"悪い子"しかいない。サンタクロースは皆の目の仇だ。毎年撃墜してプレゼントを横取りする為に銃が売れに売れる。ネクロランドは銃社会だ。道行く屍者や化物のおよそ7割が銃を携帯しているほど。フェルは咥えタバコでそんな街をふらふら闊歩する。

「あ、フェリエッタ!! 今年城主催のサンタ狩りが中止って本当なの!?」
「フェル!! サンタ狩りやってよ!! 折角このM16ってでかい銃買ったのよ?」

フェリエッタを見つけた屍娘2人が声をかけてきた。一人は錆び付いたアサルトライフル、M16A1を抱えている。人間界のベトナム戦争時代のものだ。そういえば、面倒だし毎年主催していたサンタ狩りを中止しようかと考えていた所だった。随分皆の耳に入るのが早い。

「ハイラァ。ちょうどそれを考えにヘールズ・ホールに行く所なんだ。」
「あ、もしかして"オール・サンティング・イブ"のショーでしょ!!」
「サンティング・・・?」
「まさか知らないの!? フェル、一応領主でしょ!? サンタ狩りのミュージカルなのよ!!」

フェルは普通に知らなかった。よもやこんなにもサンタ狩りをしたいとは。二人の屍娘達は何か打ち合わすと、濁った死人の目を潤ませて頼み込んできた。

「お願いフェル、私達もショーに連れてって!!」

「・・・わかった、お嬢様達。一緒に行こう」

こうして2人の屍娘も同行する事になった。ゆるいネクロランドの気風だ。最悪、立ち見でも大丈夫だろう。

† † † † †

ガタンガタン・・・
岩がむき出しの地下廃坑道。台車と表現する他ない、車輪とエンジンを載せた台に簡素な手摺をつけただけのトロッコ。心許ないランタンが照明だ。ハンチングにオーバーオールの車掌の屍者の少年。それに乗る5人。その中にフェルと先程の屍娘達はいた。

「・・・かなり状態が悪い。ボルトが錆びてる。恐らくガスルートもダメだな。このままだと一発しか弾が出ない。帰りに渡して欲しい。今日屋敷で整備しておくから、明日取りに来てくれ」

「それじゃ、明日のサンタ狩りは決まりね!!」
「さっすがフェル!! ついでに使い方も教えて!! 買ったはいいけどこの銃、全然わからないのよ!!」

「ははは・・・よく買ったねこれを・・・」

フェルはM16A1を通常分解して点検しながら、トロッコ移動の時間を潰している。慣れた手つきで工具もなしに組み立て直し、屍娘に渡す。

「えー次は・・・カタコンベ中心街ー」

車掌の少年が到着を告げ、手動式ブレーキをかける。トロッコは悲鳴のような軋みを上げながら停車する。フェル達は切符がわりのどこかの国の切手を車掌の少年に渡し、トロッコを降りる。

地下墓地街。いつの時代のものかもわからない、ネクロランドの地下に存在する巨大なカタコンベに屍者や化物達が住み着き、さながら現世の地下街の形相を成している。乱雑に手掘りされた洞窟に光るランタンや松明の明かり。所々に転がる骸骨の横で眠りこける屍者達。その中にヘールズ・ホールはある。入り口ではウィスカプラッシュが待っていた。

「ハイラァ、ウィスカプラッシュ。招待状をありがとう。約束通り来たよ。この娘達もいいかな」

ウィスカプラッシュはこくこくと頭を前後させると、大きなエプロンの前ポケットからスケッチブックとペンを取り出してさらさらと何か書き記す。それをフェル達に見せる。

"ハイラアァー!! フェル、待ってたわよーっ!!! ほらほらどうぞどうぞ、お二人さんも遠慮なく!! まだまだショーまで時間があるから適当にくつろいでって!! とりあえずみんなに何かサービスするから!! ココア? コーヒー? ヘールズ・ティー? あはははは!! 中で聞こうかな!! とりあえず入って!!"

喋れないが、ものすごくお喋りなのがウィスカプラッシュだ。ぴょんぴょんと跳ね回りながら3人を店内に案内する。右回りの手掘りの螺旋階段には紫に輝く特殊なランタンが下がって独特な雰囲気を醸し出している。30段ほども降りると、目を疑う程の巨大なホールが眼前に現れる。"Hare's Hall"、三月ウサギのホールの名の通り、ここはウサギ系の屍者達が中心となり作られたカフェだ。最初はオーナーのウサギ、ブラシィエラが手掘りしたほんの小さな窪みでしかなく、テーブルも1つだった。それがこのウィスカプラッシュと出会い、次第に穴を掘り進め、多くのウサギ系やそうでない屍者、化物達がカフェに加わりいつしか巨大な地下ホールになった。喧騒。今日は流石に一段とお客が多い。ヘールズ・ホールには"地上席"と"頭上席"がある。地上席は通常のカフェのようなテープルだが、頭上席は文字通りホールの天井に開けられた横穴の中に席がある。ここに行くにはカフェのウサギ達の脚力を借りる必要がある。頭上席を頼むとウサギ屍者達が抱きかかえ、そこまで跳んでくれるのだ。無論、降りる際もベルを鳴らして頼む必要があるが、一人の時間を過ごしたいお客には最高の席である。今日はホール正面にある舞台でのショー。頭上席には誰もおらず、地上席はほぼ満席だ。ウィスカプラッシュに各々ドリンクを注文すると、3人は時間つぶしにまた雑談を始めた。


† † † † †

「Deads and Still Livers!!」
(屍者、生者の皆様!!)

「Welcome To All-Santing Eve Show!!!」
(オール・サンティング・イブ・ショーへようこそ!!!)

遂にショーの幕が上がった。司会として登場したのは、このカフェのオーナーでもあるブラシィエラだ。ミニハットに可愛らしいかぼちゃズボン、胸には蝶ネクタイ。

「さあさあ、よくぞいらっしゃいました皆様!! 今宵はこの日にぴったりな最高のディナーショーをお送りしますよ!!」

軽妙なジャズの音にあわせて、左右からカフェのウサギ屍者達が躍り出る。皆バニースーツにミニハット、ラインダンサーを彷彿とさせる。

"We Are Naugty Naugty Naugty Girls!! They areAbandon by The Holy God!!"
(私ら 超 超 超 悪い娘よ!! みんな聖なる神に見捨てられた!!)

"Not have an Presents for Us!! His only Gave meKrampuses!!"
(私らにプレゼントはなし!! 奴はただクランパスだけを差し向ける!!)

くるくると舞い踊るウサギ達。中にはウィスカプラッシュも混ざっている。随分とハイテンションで一人だけ微妙に踊りが違う。

「ねえフェル、クランパスって何?」

M16を撫で回す屍娘がフェルに訊いた。

「ヨーロッパ、ドイツ辺りの地方にいるヤギ顔の怪物さ。サンタが悪い子と認定した子供の前に現れて鞭で打って懲罰する」

「まあ怖い、この子で殺せるかしら?」

「3発もいらないな」

「それなら問題ないわね!」

脚を上げ、跳ね、踊る。司会のはずのブラシィエラが20m程大ジャンプして、ステージの中央に着地して一回転。マイクを器用に廻してセンターに躍り出る。

「I'm Bratschariea! March Hare! Why i'm here? I'mHunted!」
(私はブラシィエラ! 三月ウサギよ! 何故ここにって? 狩られたの!)
「They shot me! and i Lose life and Nose! And then? IHUNT THEM! One-By-One-BANG!」
(奴ら私を撃った! そして命と鼻を無くした! それからって? 奴らを狩ったのよ! 一人ずつ、バァン!)

己の死因と所業をジャズに乗せ、面白おかしく紹介するブラシィエラ。マイクを隣の薄青色の髪をした垂れ耳のウサギ屍娘に投げ渡す。

「I'm Reatholeire! Hear my Voice! Yes,I'm a Boy butHey What's the matter?」
(私はレアトホレイル! この声を聴いて! そうよ、私は男の子、でも何か問題でも?)
「They put me in Bag-n-Beat! And I'm Here! i upsetand SACK-AND-SANK Them!」
(奴らは私を袋に詰めて叩き殺した! それで此処に来た! キレて私は奴らを袋詰めにして沈めたの!)

"We Are Naugty Naugty Naugty Girls!! They areAbandon by The Holy God!!"
(私ら 超 超 超 悪い娘よ!! みんな聖なる神に見捨てられた!!)

"Why Judging by The Beardy Fatso? Why Chasing byThe Ugly Goat?"
(何故ヒゲのデブに裁かれなきゃならないの? 何故醜いヤギに追われなきゃならないの?)

レアトホレイルと名乗ったキュートなウサギ屍"娘"は、今度はひときわ背の高い前髪で眼の隠れたウサギのような耳を持つ化物娘にマイクを投げ渡す。

「i'm whispiria. i born-in-darkness, my eye andmouses are reverse.」
(私はウィスピリア。闇の中で生まれたの。私の眼と口は逆に付いてるの)
「i'm born evil,because i'm devil,but i'm desen't matter,i only whisper with dual mouths.」
(私は悪しきモノ。何故なら悪魔だから。でも気にしないわ。私はこの二つの口で囁くだけ。)

囁くように低音と高音で二重奏するウィスピリアはにやりと笑う。口に見えた所からは瞳孔と目玉が覗く。前髪の下には眼の位置に二つの牙の見える口がある。長身を生かして、随分小さなウィスカプラッシュにマイクを渡す。

「・・・・・・」

ウィスカプラッシュは当然、喋れない。そこで丁度ドラムの音が激しくなり、まるで口ずさむようにリズムを取る。ウィスカプラッシュは地面にスケッチブックとマイクを置いて四つんばいでペンをそれに走らせる。観客席からはふりふり揺れるバニースーツの可愛らしいお尻の部分だけ見えている。シャカシャカとペンを走らせる音はまるで歌うようだ。そしてくるりと立ち上がり、観客席にそれを見せる。

「I'M WHISKAPLUSH! I AM NO VOICES! BECAUSE I'M PLAYED BY A PSYCHOTIC!」
(私はウィスカプラッシュ! 私に声はないわ! 何故ならサイコ野郎に遊ばれたから!)
「HIS SLASH MY MOUTH AND TEAR OFF MYTHROAT! AND WHY NOT? I KILL HIM BRUTALLY!」
(奴は私の口を裂いて喉を引き裂いたわ! そして勿論、私はヤツをブッ殺したのよ!)

"We Are Naugty Naugty Naugty Girls!! They areAbandon by The Holy God!!"
(私ら 超 超 超 悪い娘よ!! みんな聖なる神に見捨てられた!!)

"We Are Only Bringed our Justice!! You do the SameThing Our does!!"
(私らは正義を齎しただけ!! あなたが私の立場なら同じ事をするに決まってる!!)

ダン!!と締めのドラムで全員が決めポーズを取る。割れんばかりの拍手喝采がホールに響き渡る。ウサギ屍者達が深々とお辞儀をする。ウィスカプラッシュがマイクをブラシィエラに投げ渡すと、ブラシィエラは司会の仕事に戻る。

「続いてはぁー!! 今日のスペシャルゲスト!! 狂気と快楽の淑女!! ヴァニィ・ヴァーミリオンです!!」

更なる大歓声が巻き起こる。その名を聞いてフェリエッタは表情を変える。

「・・・今ヴァニィって」

「あら? フェルもヴァニィ・ヴァーミリオンを見に来たんじゃないの!?」

「初耳だ・・・」

それもそのはず。照明が落ち、スポットライトと共に現れたのは・・・

「にゃっふふふふふぅ!! 皆様御機嫌よう!! 我こそ狂気と快楽の淑女!! 血と愉悦のバニーガール!! ヴァニィ・ヴァーミリオンですにゃーーーっ!!」





切り揃えた前髪、ツインテールの白銀髪。鼻は獣風に黒く塗り、やりすぎの頬紅。バニースーツに網タイツ。獣耳の上に無理矢理乗せたバニーカチューシャ。
・・・しかしどこからどう見ても、それはルルだった。ヴァニィ・ヴァーミリオンはルルがこの姿でパフォーマンスをする時に名乗る芸名。フェルはこの時全てを理解した。招待状の件も、ルルがいなかったのも。大歓声の中、ルル扮するヴァニィはくるくるとステッキを廻しながら腰を振りミュージカルを始める。ステージ上のウサギ屍娘達もそれに加わる。

「ディッセエェンバァトゥエニィサァード♪ 明日は人間共の浮かれる日♪」

ステージの中央で舞い踊るルルの前にブラシィエラが出る。

「サンタさん!! プレゼントをお願い!! 金と権力ね!!」

さらに彼女役のレアトホレイルの手を彼氏役のウィスピリアが引いて歩き出し、低音で囁く。

「聖なる夜にいい事しようぜ・・・」「まあ素敵!! これで周りに威張れるわ!!」

その奥からウィスカプラッシュが出てきてしゃがみ込んでうなだれる。
手にはスケッチブック。

「もう子供じゃない、恋人もいない、私にゃ全然楽しくない!!」

ヴァニィが出てきてウィスカプラッシュの頭を撫でる。

「あいつは既に幸運なヤツしか救わない偽善者!! あいつの名前は?」

「あいつは!?」「あいつは!?」「あいつは!?」「あいつはーッ!?」

バァン!! ステージの仕掛けが作動して紙吹雪を散らす。

『オーマイ・ファッキン・サンティ・クロース!!!!!』

瞬間、さらに激しいジャズをバンドが刻み出す。ステージの奥からは醜悪に描かれたサンタクロースの巨大な人形が現れた。踊り出すウサギ屍娘達をバックに、ヴァニィがスタンドマイクで艶かしく踊りながら歌い出す。

「Humans Said Tonights are "Holy Night" But Hey!Look! Where's Holy?」
(人間共は今夜を聖夜だと言います。でも見てください、どこに神聖が?)

「They Going to the Bed! Going to Greed! Going tothe Party Hard!」
(奴らはベッドに潜り、強欲を丸出しに、乱痴気騒ぎを起こします!)

ヴァニィはガーターベルトからナイフを取り出してくるくる回る。

「Eyes for an Eyes!!」
(眼には眼を!!)

ヒュカアッ!! サククッ!!
ヴァニィは回りながらナイフを2本投擲し、背後のサンタ人形の両目にそれを寸分の狂いもなく突き刺す。

「Tooths for Tooths!!」
(歯には歯を!!」

ヒュカカカカァッ!!!
今度は一気に10本のナイフを投擲するヴァニィ。それらは全てサンタ人形の上下の歯5本ずつの中心に吸い込まれるように突き刺さった。

大歓声。拍手が巻き起こる。ステージ上を歩き回るヴァニィはブラシィエラからマイクを受け取ると、意外な事を言い出した。

「さあて・・・今度は誰か一人観客の皆様に手伝ってもらいましょうかにゃあ? 誰にしましょうか・・・?」

沸き立つ観客達。顔を伏せるフェル。ヴァニィはバニースーツの胸の谷間からトランプのカード、ジョーカーを一枚取り出して観客席を狙う。ぴたり。指が止まり、カードが投擲された。

ヒュカァッ! コンッ!

カードは顔を伏せたフェリエッタの目前に突き刺さって立った。うんざりした顔で片目を開けて確認するフェル。

「にゃあにゃあにゃあ!! 奇遇ですね!! The Nightmare Himself!! "彼こそが悪夢"、フェリエッタ・バリストフィリア!!! 支配者様がお忍びですか? にゃっふふふふふ!!!」

ルルが指を鳴らすと、サンタ人形の脳天に小さな的が出現した。サイズにして20cmもない。

「ではでは、威厳ある支配者、ロード・フェリエッタ様の類稀なる銃の腕前を披露してもらいましょう!! あの的が見えますか? 合図をしたらあれを一発でブチ抜いて下さいにゃ!! その席を立っちゃ興醒めですよ!!」

的までの距離は30mもある。フェルからは小指の先ほどの大きさもない的だ。

「・・・ブラシィエラ!! このカフェは銃禁止じゃなかったのか!?」

そう、普段このヘールズ・ホールは手掘りの洞窟だ。崩落防止、安全の為、銃の持込みは許可されているものの安全装置をかけ初弾をチャンバーから抜き、発砲しないようにする事がマナーになっている。しかしブラシィエラは大きなウサギの耳ではなく人間の耳の位置に手を当て「聞こえない」の手振りをする。仕方ない。フェリエッタは腰のガンベルトから銃身の長い、7インチスライドカスタムの彫刻入りコルト.45を抜いてスライドを引き、装填を確認する。

「さあ!! 準備はいいですか!! とくとご覧あれ!!」

そう言うとヴァニィは、フェルから見てサンタの額をギリギリ狙えるかどうかの位置に立ちふさがった。少しでも下に弾が逸れれば、ヴァニィの頭を撃ってしまう位置だ。それを見た観客達は熱狂する。

「見て!! 出たわ!! ヴァニィの"自分が死ぬデス・ゲーム"よ!!」
「フェルなら大丈夫でしょ!! ガンスリンガーだもの!!」
「ここでミスったらダメだからね!! うまくいくわよ!!」

口々にフェルにプレッシャーの津波をかけまくる。鳴り響くドラムロール。溜息をつくと、フェルはテーブルに座ったまま両手で愛銃を構え、慎重にヴァニィの頭頂部ギリギリに照門と照星を合わせる。いまいち狙いが定まらない。テーブルに両肘をつき、依託射撃の姿勢を取る。
はっ、はっ、はっ・・・
犬のように短く呼吸をする。そして思い切り息をフゥーと吐き、肺の空気をカラにする。世界の流れが遅くなり、フェルの世界には銃とサンタの額の標的以外の存在がなくなる。そして・・・

ダアァァン!!!

銃弾はヴァニィの頭頂部をほんの少しだけかすめ、数本のくせ毛が銃弾に切られて舞う。瞬間、ボンとサンタの人形の頭が爆発して紙吹雪が舞い散った。的には爆薬が仕込まれていたのだ。ヴァニイは無傷。手を振って観客席に無事をアピール。大歓声。ショーは最高潮だ。

「にっははははぁ!! やりましたね!! 皆様、我らがフェリエッタ様に盛大な拍手をーっ!!!」

拍手喝采を送られるフェル。弾倉を外し、銃の薬室から弾を抜くその顔は疲れきっていた。

「Let's Burnin' Burnin' Burnin'Nights!! Make Unholyholy holy Nights!!!」
(さあ燃やせ、燃やせ、この夜を燃やせ!! 不浄な夜を、夜を、夜を作れ!!!)


† † † † †

全てが終わり、フェルとヴァニィ改めルルはルルの愛車、ミニ・クーパーで帰路に付いていた。後部座席にはあの屍娘から預かったM16。郊外の墓場を疾走する。

「・・・そうか、私が今年のサンタ狩りを中止にしようと漏らしたから、それで私にサンタ狩りの開催を決めさせるためにみんなグルだった、って訳だったか」

「にゃっふふふ、そうですよ。ご主人様が考えている以上に、クリスマスイブの夜のサンタ狩りは一大行事なんですよ。みんな明日の為に銃を買い、場所を探し、お弁当と敷物を持って夜空にブッ放したいんですよ」

「成る程な・・・ OK、解った。今年もサンタ狩りは開催だ。でも今から皆に伝えるには・・・」

「心配には及びません」

そう言うとルルは車のシートの下から信号拳銃を取り出し、窓から銃だけを出して発射した。緑色の信号弾が夜空に煌く。一拍置いて、遠くに見える街のあちこちから同じく緑色の信号弾が輝き始めた。フェルは事の大きさに少々呆れた顔をする。

「成る程・・・ 私がOKを出したら、ルルがそれを打ち上げるのが合図だったか」

「その通りです。そしてあの信号弾の数が、サンタ狩りを待っている住人達の数ですよ」

夜空には、数百もの信号弾が打ち上げられていた。皮肉にもそれは、人間界のクリスマスデコレーションそのものだった。

† † † † †


2019/12/24。時刻は午後10時。ネクロランドにそびえ立つ古城、ルシッドヴァイン城。その正門の先、噴水広場前には大勢の屍者と化物が集まっていた。その眼前に立つのはフェリエッタ。

「紳士淑女、死者に生者の皆様方、ようこそ。只今より今年のサンタ・ハンティング、サンティングを開催する。くれぐれも怪我をせぬよう、楽しんで行って下されば。城の設備と防御機銃、武器庫の銃は全て無料貸し出しとするので、ご自由に使っておくれ。以上。ハッピー・サンティング。」

大歓声と共に、数百名の"悪い子"達が各々走り出す。城の最上階にある対空機銃に飛びつく者、武器庫から重火器を運び出す者、狙撃位置を探して梯子を城にかける者・・・

そして時刻11時。夜空に鈴の音が響き始めた。フェリエッタが双眼鏡でサンタクロース達のソリを視認する。

「・・・来たぞ」

そう呟くと、赤色の信号弾を夜空へ打ち上げた。

瞬間。

暴風雨、竜巻の中にいるような、激しい銃声と銃火で夜は真昼間となった。

END











※ この小説は、作者の明晰夢を元に再現したフィクションです。








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